シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
猫やリスの動きだってそうだ。
生き物だから動きは必ずランダムなものと…そんな先入観に苛まされ、結果的には自ら乱雑化しすぎて気配も掴みにくしてしまって。
それを五感異常のせいにして。
過去の記憶に弄ばれながら…自分で心を弱らせて、勝手に怯んで。
記憶に残る部屋を、常に思い出し続けることが定義(ルール)だというのも災いしていたのだろう。知らぬまま…俺達は自分の記憶に閉じ込められていたことになる。
記憶という名の夢。
それこそがこの世界の舞台とするならば。
だから…揺れた。
心が…必要以上に。
"想像"させられた。
"錯覚"させられた。
本物の夢のように。
夢が続くから、揺れた心。
心が揺れているから、夢は続く。
夢が途切れぬ限り――
それは――
出口無き…堂々巡りの迷宮。
「夢において…夢だと自覚する手っ取り早い方法は、ショック療法。
信じられるのは煌と俺だけだというのなら。信じられる存在から命の危険を感じ取れば、その衝撃さ故に、瞬間的に自分の防御本能が疑似感覚に勝る。
本能がもたらすSOS、"危険"信号は…
どこまでも真実としての…本来の感覚を再生させ、偽りに惑う自分自身を守ろうとするだろう。
それは…目覚め、の感覚だ。
五感を言葉だけで奪われるというのも、定義(ルール)というものが存在しているが故に…俺達自身が"想像"したものだ。
その想像に…自分自身が囚われていた。
だから真実たる"現実"を、自分自身が確りと捉えることが出来れば…俺達はもう揺らぐことはない。
真実は…偽りに勝る」
この推測は…
「へえ…ちゃんと見えるようになったんだ?」
俺の言葉を待っていた男によって、保証された。
見慣れた神崎家の居間。
動物たちは犇(ひし)めきあっているのに、動きがない。
その動物たちがちらちらと見ているのは――
その中で異彩を放つ、腕組みをして立ち竦む青の男。
俺の視界の中は…ゲーム前と何も変わらない。
俺にはもう…五感異常は通用しない。