シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


薄笑いをする氷皇は、やはり足しか動かしていない。

偽りでも…手を使わせられるのは、緋狭さんだけなのだろうか。


「櫂、足が来るぞ!!!」


足が床についた途端広がる衝撃波。

俺達は宙に身を翻せど…氷皇は既にその位置で待ち構えていて。


「ぐっ!!!」


さしずめ曲芸の如く、ぎりぎりで攻撃をかわす。


本能が…体を動かす。

動かないわけはない。


俺の五感が正常であるというのに。


真実故の確信が…自信を持たせ、いつも以上の力を出させる。


「やった!! 一太刀だけど…嬉しい俺ッッ!!!」


氷皇の頬を掠めた蛇矛。


「こっちは…腕に行った!!」


たかだか1回ずつ、攻撃が入っただけだというのに、妙な感動が芽生える。


俺が緋狭さんの元で鍛錬していた時、その1回目の感動を、緋狭さんに忘れるなと言われていたのを…思い出した。


――坊。初心、忘れることなかれ。


ああ、俺は。

己の力に、驕(おご)っていたのか…いつの間にか。


その時――


「櫂、何か来るぞ!!!」


気分を損ねたらしい氷皇が外気功のような衝撃波を発し、避けきれぬ俺達は防御を取らざるをえなかった。


神崎家が崩れていく。


ああ…見えていればいいってもんじゃない。


俺と芹霞の思い出の家。

煌にとっても思い出の家。


これこそが…精神的ダメージなのかと思う。


視覚が戻れば戦いやすくはなるけれど、見えるが故に…苦しむ心も生じる。


肉体的有利でも…精神的に不利になる場合がある。


それに揺さぶられずにいる為には、俺の心が安定していなければならない。


感傷に囚われすぎてはいけない。

囚われれば…抜け出せない。


何が現実なのか見極めろ。

どうすれば突破できるかを考えろ。


必要なのは…時に思い出を壊す、非情な心。


「青色だけじゃなくて、僕達の相手してよ!!!」

「僕達をなめてるだろ!!!」

「こうなったら、皆!!! 胡桃攻撃だッッ!!!」


ダンダンダンッッッ!!!


鉄の胡桃(くるみ)が飛んできた。


「何だお前ら…胡桃を、ぷっくぷく頬から取り出しているわけじゃねえのか? どっから出してるんだ、そんなポイポイポイポイ…」


ひょいひょいと躱(かわ)しながら、煌が驚いた声を出した。


「どっから!!? そんなの企業秘密に決まってるだろッッ!!! それに大体、僕の頬にこんな重くて大きな胡桃が沢山入るわけないだろ!!? ここに入っているのは、丁寧にカリカリした芹霞に捧げる愛の胡桃だけだッッ!!!

下膨れだとか、ぷっくぷくだとか…僕を馬鹿にするなッッ!!!」


ダンダンダンッッッ!!!
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