シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

警護団において、事実上…紫堂における責任者は彼のはず。

紫堂本家がおかしなことになっていて、警護団員が異常を示したあの中で、何故長たる副団長が任務を放棄して本家の外にいるんだ?

夜の内、まだ遠坂由香が本家に到着していなかった時には、執事長と本家に居たのは私は確認している。


当主か久涅かに、何かの命を受けて単独行動をしていたか、もしくは――逃げた、か。


もしも警護団に、突発的な不可抗力的な事態が起こり、それに恐れをなして飛び出した…というのであれば、それはそれで問題だ。


警護団は、"紫堂の為に死ぬ"精神を刻み込まれる。

それを責任者が違えて、真っ先に逃走するのはゆゆしき事態。


「それについて、お話があるんです、団長」


副団長は声を潜め、強張った顔をして私に言った。


「紫堂本家で起こったことを、お話いたします。此処ではなんですから、場所を変えましょう」


紫堂本家で何が起きていたのか、副団長は知っているのか?

その言葉は、私の興味を引いた。


「団長は…見張られています」


口早で彼はそう言った。


私は…そうした監視の気配を感じていなかった。

それだけに、彼の言葉に驚きを隠せず…そして尚も、彼は何か見知っているのだということを悟った。


紫堂の画策のことか、それ以外の者のことか。

内容はまだ判らないけれど、話を聞いてみようと思った。



「どうぞこちらへ。此処は目立つ大通りですので」


私は副団長について、裏路地に回る。


「ここなら…敵の動きは限られます」


高塀に囲まれた袋小路。

人影を見つけられるとしたら、1方向のみ。


かさかさになって地面に落ちた木の葉が、つむじ風に揺られて飛んでいく。

侘びしい…冬の到来を予感させる、乾いた音。


副団長はくるりと私に振り返る。


「団長は…今の紫堂をどう思われますか?」


単刀直入。


「それはどういう意味だ?」


私は目を細める。

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