シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「櫂様なき後、当主の座につくのが玲様であるのだとしたら。紫堂に未来はあると思いますか?」
「玲様を愚弄する気か?」
「いえ。愚弄ではなく、案じているのです。櫂様は紫堂の空気を弾くだけの力があった。しかし玲様は…弾かず、受容なさっている。これでは…紫堂の未来はない」
「そんなことは警護団が考えることではないだろう。警護団は、与えられた任務をただ遂行すればいいだけだ」
玲様は、好きで受容しているわけではない。
強くなろうとしている今、櫂様への思慕と芹霞さんへの愛情に賭けて、弾こうとされているのだ。
当主が櫂様の死を知らぬ限り、矢面に立たされるのは玲様ただ1人。
どれだけ大きなものをぶつけられるのか、知らない癖して…ただの部下如きが好き勝手なことをほざくんじゃない。
「話が玲様の悪口(あっこう)であるならば、私は帰る」
しかし私の心は副団長には伝わっていなかったようで、その目には落胆の光が宿っている。
要職につきながら、紫堂の未来を考えていない…、そう失望させてしまったらしいことに、わざわざ言い訳する気はない。
真実が見えぬ者には、何を言っても無駄だということが判っている。
逃げる時間をくれたとはいえ、結果的に櫂様に追い詰める側に回ったという事実が、私の心を冷ややかにさせているのかもしれない。
馴れ合う気はない。
当主に歯向かった私は、いずれその任を解かれるだろうし。
もしかしてすでに解かれていて、その事実を彼が知っているのかもしれない。
しかし私にとってはどうでもいいこと。
私は、私がお守りすると誓いを立てた方々を守りたいだけ。
紫堂家の未来など、知ったこっちゃない。
カサ…。
そんな時、木の葉を踏む音がして、私ははっと後ろを振り返る。
「ん~?」
そこに居たのは、ウサギの着ぐるみパジャマを着た、小さな小さな幼い子供。
4、5歳というところだろうか。
眠くなるようなパステルピンクの、もこもこ素材のパジャマ。
靴の代用か…足にも可愛いウサギ足。
おむつでもしているのか、大きなおしりには、白い丸玉の尻尾もついている。
「おに~たん? おね~たん?」
大きなウサギ耳付きのピンク色のフードを被ったその頭は、ゆらりゆらりと左右に揺れて、じっと私を見つめている。
「ん~???」
人差し指を口に入れ、一生懸命考えているようだ。
「おに~たんかな~」
きっと芹霞さんなら飛びついて抱きしめていただろう、そんな子供。
だけど何だか…私は降って湧いたようなこの子供を、好意的には思えず、思わず足を一歩退けてしまう。