シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

謝罪


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カタン。


部屋の片隅に置いた青いクーラーボックスで、氷が鳴った。

それを契機に、カタンカタンと音は続いた。


まるで――

壊れゆく氷塊が、悲鳴を上げているような音に聞こえて。


ふと、桜ちゃんの顔が浮かんだんだ。

強い強い、黒い警護団長が、あたしに助けを求めているとは普通に考えてありえないことだけれど、桜ちゃんのことが無性に気になって。

あたしは壁時計を見上げた。

あれから1時間近く経っている。


桜ちゃんの帰りが遅すぎやしないか。

桜ちゃんに何かあったのだろうか。


そう心配する反面、単純に考えたい自分も居る。

瞬間接着剤がコンビニにないのかもしれない、と。

だから桜ちゃんは探し回って帰りが遅いのだと、


………。

後者であって欲しいと願う。

これ以上、あたしの大事な人たちが傷ついて貰いたくない。


責任感が人一倍強い桜ちゃんは、きっと帰ってくる。


ごめんね、桜ちゃん。

手間をかけさせたお詫びは必ず。


あたしは溜息をついて、眠り続ける玲くんの顔を見た。


何とか玲くんの歯を元に戻したいけれど…玲くんの頬がますます膨れ上がってしまっている。


口を動かさず安静にしていないといけないのに、玲くん…夢だ夢だと結局お話沢山して口動かしたし、極めつけは…クオンに叩かれて。


しかもその間、薬の氷は口に含んでいなかったから、その鎮痛&抗炎効果も切れてしまったんだと思う。


このまま元に戻らなかったらどうしよう?


あたしはぷっくり玲くんに激しく恨まれ、…虐げられるならまだしも、完全無視される未来を憂えた。


にこにこほっこり愛情たっぷりな養分を貰えないあたしは、暗い部屋の片隅にて干からびて孤独死している気がした。


何処かの育成ゲームでもあったはず。


シワシワでやせ細った、緑色の――

言うなればそれは…"枯れせりか"。


ああ、時間を巻き戻したい。

なかったことにしたい。


だけどそれは逃げの姿勢だということは判っている。

あたしがどうなろうと、あたしは玲くんのお口を元に戻さないといけない。

あたしまで玲くんの人生を狂わせてはいけないんだ!!


不安と逃げから責任感で綴じられるあたしの葛藤及び決意は、ぐるっと輪を描いて、結局振り出しに戻る。


そしてあたしは、せっせせっせと……玲くんのほっぺの看病に献身するんだ。


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