シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「裏世界に『気高き獅子』が入った。それはお前の画策か? それとも緋狭の?」


彼は挨拶もなしに、単刀直入に聞く。

それでもこの青い男は、それを咎めることなく…愉快そうに嗤って言う。


「さあて? 肩書きがなくなり、出生疑惑で地盤もなくなり、生きる意味すら見失った男が、偶然――"死んだ"者達が集う裏世界へ入る資格を持ち、偶然其処の場に"案内人"がいただけのこと」


くつくつ、くつくつと青い男は笑う。


彼は冷ややかに言った。


「例え環境が整っても、相応の決意がなければあの世界には入れない。

その為に――忍耐の『白き稲妻』に必要以上の"執着"を与え、奪わせたのか、最愛の女を」


「さあ? あれは"白い王子様"の努力の賜物だろう? 

ただ偶然、いつも以上の"邪魔"が入り、その苛立ちが発作を誘引させる程のストレスとなった。

その結果、常日頃の悲観的な思考力を無くして、勝手に焦り勝手に切迫し…ただ状況に流されるまま、本能の赴くままに動くことになったおかげで、いつもの努力を強引に実らせただけのこと」

くつくつ、くつくつ。

青い男は喉元で笑う。


「どうせお前が無理矢理…追い詰めるような舞台を作ったんだろうが。いつもの通り。

紫堂の…『氷の次期当主』を"約束の地(カナン)"に差し向け、結果『気高き獅子』を裏世界に入れさせた。黒き薔薇の刻印まで、ご丁寧に施して。『気高き獅子』から全て奪って…彼の精神がよく保てるものだ」


くつくつ、くつくつ。


「当然。アカが見込んで、導いてきた男だ。私情に囚われて全てを破滅するなどいう愚かなことはしない。

あいつは――

無からのものでも有を作り出す、全てにおける貪欲な男だからな。"0"のままで消え去る軟弱な男であるのなら、"約束の地(カナン)"などには送らない」


「白皇の"約束の地(カナン)"は"模倣"…実験台を兼ねた…"隠蔽"か?」


「何だ、そこまで判っているのか。これは俺の策ではない。元々がその予定だったのを、シロが勝手に先延ばしにしていただけだ。何だかんだと理由つけてな。終いには錬金術まで持ち出した。

…余程"約束の地(カナン)"を壊したくなかったと見える。…後継者たる久遠の存在が、ひっかかっていたのだろう。

今、"研究"は別の人間が引き継いでいる。今回の破壊は、その検証を兼ねてのものでもある」


"研究"

それに、彼は不快な色を顔に浮かべた。


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