シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

「……おは…よ…。………。え!!? ベッド!!? な…何で、ソコ…にいるの?」


もごもごだけど、少し…動揺したような上擦った声を出した玲くんは、そして頬を手で押さえ、顔を顰(しか)めた。

必要以上に頬の筋肉が動いて、痛かったんだろう。


「勝手ながら、ぬくぬくさせて貰ってました。申し訳ありませんでした」


その場でぺこりと頭を下げた。


「いや…別にいいんだけれど…嬉し…いくらいだけど、僕…なんか…したかな?」


もごもご。


「されておりません。今ぬくぬく始めたばかりです」


「あ、そ…う? 何で…鼻にティッシュ? 顔色…悪いし…頬に、引っ掻き傷?」


もごもご。


「乙女には、事情が色々あるんです。断じて、痴女ではありません」


ただ玲くんの悶える姿に、どっぷり血が出ただけです。


「……は…ぁ…?」


ぷっくり玲くんは…釈然としていないような顔つきだった。


「此処は…何処…?」


鳶色の瞳が辺りを見渡す。


「紫茉ちゃんの家。逃げてきたの、皆で。覚えてない? あたし達が突入したの。猫が活躍してたでしょう?」


玲くんの目に、驚愕の色が走った。


「でもあれは……夢だろう!!?」


叫んだ玲くんは、直ぐに顔を歪めた。

頬が痛んだらしい。


「猫が刀咥えて戦っていたのは現実です」


「!!!!??」


玲くんは驚きのあまり目と口をあけ、そして即座に頬に手を置き、震えながら縮こまった。

相当痛かったらしい。


「だ、だけど…」


もぞもぞと動いて、またあたしと視線を合わせる、ぷっくり玲くん。


「現実です。今度も現実です。何度も何度も言いましたが、玲くん。そこから今までの、あたしとの会話は、全て現実のことです」


「………」


玲くんは…何か思い当たるふしがあるのか、少し目を細めて。


「猫が刀咥えて斬り付けたのも、あたしが当主に怒鳴ったのも、離れないと言ったのも、全て全て…現実のことです。言われる前に言っておきますが、夢ではありません」


どうだ。

先に言ったモノ勝ちだ!!!


「………」


ぷっくり玲くんは困惑したような表情を浮かべて…鳶色の瞳が、記憶の何かを探っているかのように忙しく動いていた。


そしてあたしの顔を…少しびくびくとしながら見つめて。


「僕……芹霞に…「気にしないで下さい。むしろそれによって気にしないといけないのは、あたしの方でして。誠にすみませんでした」


あたしは両手をついて深々と頭を下げた。
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