シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「玲くん……?」
「ありがとう芹霞。
……本当にありがとう」
別にあたしは、特別なことをしたわけではない。
自分が思っていることを素直に述べたまで。
そんな御礼を言われることなんてしてはいないけれど…だけど玲くんの様子は、まるで命を助けて貰ったかのように、感に堪えないといったような雰囲気で。
それを見ていると…何気ないものでも"言葉"というものは、人の心に影響する大切なものなんだなとしみじみ思ってしまう。
言葉は両刃の剣。
当主のような悪意に満ちた言葉は、人の命まで奪う結果にもなりえる。
"言霊"…。
それは放つ時に力が宿るのか。
耳に入れた時に力が宿るのか。
あたしはよく判らないけれど…言霊使いの久遠なら、知っているのだろうか。
玲くんは頬に置いたその繋いだ手を、その唇に持って行き、あたしの手の甲に、繋いだ指に…何度も何度も唇を落とした。
繋いでいるという現実を、1つ1つ確かめるかのように。
「離さないよ、僕は…。
君が繋いでくれた此の手を…
絶対離すものか…」
まるで泣いているかのようにも聞こえる、玲くんの震えた声。
「どうすればこれからも傍にいられるか…そればかりを考えていた。
君から…手を離される…そればかりを恐れて。
どんなに僕が離したくないと駄々を捏ねても…嫌われたら…お仕舞いだと…。
それが最低な僕に与えられた罰なのだと判っていても…僕はどうしても納得出来なくて…。
だけど…その時は来るんだと…、僕は幸せなんかなりえないのだと…だから目覚めたくないと…思って」
そして、その手を引いてあたしを抱き寄せると、玲くんは言った。
「好きだよ…芹霞。
本当に好きだからね…?
これから何が起ろうと――
僕は…君は裏切らないから。
それだけは信じて」
燃えるような熱い目で言われたから。
そこにあるのは強い意志だったから。
「当主から聞いた以上…僕は、なかったことには出来ない。してはいけないと思う。だから…僕は、真実から顔を背けたくない。何が起きて何に巻き込まれているのか、僕は自分の目で見極めたい。
それが僕の、男としての…責任の取り方だと思っている」