シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「玲くん……?」


「ありがとう芹霞。

……本当にありがとう」


別にあたしは、特別なことをしたわけではない。

自分が思っていることを素直に述べたまで。


そんな御礼を言われることなんてしてはいないけれど…だけど玲くんの様子は、まるで命を助けて貰ったかのように、感に堪えないといったような雰囲気で。


それを見ていると…何気ないものでも"言葉"というものは、人の心に影響する大切なものなんだなとしみじみ思ってしまう。


言葉は両刃の剣。

当主のような悪意に満ちた言葉は、人の命まで奪う結果にもなりえる。


"言霊"…。


それは放つ時に力が宿るのか。

耳に入れた時に力が宿るのか。


あたしはよく判らないけれど…言霊使いの久遠なら、知っているのだろうか。


玲くんは頬に置いたその繋いだ手を、その唇に持って行き、あたしの手の甲に、繋いだ指に…何度も何度も唇を落とした。


繋いでいるという現実を、1つ1つ確かめるかのように。



「離さないよ、僕は…。

君が繋いでくれた此の手を…

絶対離すものか…」



まるで泣いているかのようにも聞こえる、玲くんの震えた声。


「どうすればこれからも傍にいられるか…そればかりを考えていた。

君から…手を離される…そればかりを恐れて。

どんなに僕が離したくないと駄々を捏ねても…嫌われたら…お仕舞いだと…。

それが最低な僕に与えられた罰なのだと判っていても…僕はどうしても納得出来なくて…。

だけど…その時は来るんだと…、僕は幸せなんかなりえないのだと…だから目覚めたくないと…思って」


そして、その手を引いてあたしを抱き寄せると、玲くんは言った。



「好きだよ…芹霞。

本当に好きだからね…?


これから何が起ろうと――

僕は…君は裏切らないから。


それだけは信じて」


燃えるような熱い目で言われたから。

そこにあるのは強い意志だったから。


「当主から聞いた以上…僕は、なかったことには出来ない。してはいけないと思う。だから…僕は、真実から顔を背けたくない。何が起きて何に巻き込まれているのか、僕は自分の目で見極めたい。

それが僕の、男としての…責任の取り方だと思っている」


< 407 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop