シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「誰だ、あの男…。櫂は知っているか?」
俺は、煌の問いに答えることが出来なかった。
その顔は、記憶に刻み込まれた顔と同じものだったから。
「うわっ…突然テレビまで何でつくよ!!?
お化け屋敷か、此処!!」
そう騒いだ煌が、いきなり俺の肩を叩いて一方向を指さした。
「なあ、あっち…台所にいるの…あれ…チビ芹霞じゃねえか?」
台所に現われたのは…幼い芹霞。
覚えているあの服装。
8年前のこの日――
白いフリルエプロンをつけて…クッキーを焼いていたんだ。
「その隣に居る…にこにこした美女、誰よ…?」
芹霞の母親と――。
どくん。
やばい。
俺の心が煩く警鐘を鳴らした。
希望的観測は打ち砕かれ、最悪の事態が繰り広げられようとしている。
新聞を読んでいるのは…芹霞の父親だ。
ついているテレビは…これから始まる予定の、芹霞と俺がよく見ていた動物系の和やかアニメ。
打ち切られた『魔法使いゆんゆん』の次作として始まったアニメ。
俺はしっかり覚えている。
新聞の日付。
8年前の――
××月××日。
忘れたくても忘れられない…日。
緋狭さんが休暇で神崎家に帰ってくる日。
芹霞は母親とクッキーを焼いて待っていたんだ。
俺は…その場に居たんだ。
どくん。
「……煌、お前此処から出ろ」
俺の声が震えた。
「あ?」
「いいから直ぐ様、此処から出るんだッッ!!!」
思わずそう怒鳴った時。
気配がした。
音も立てずに、ソファに近づく者の気配。
真紅色の目、白い服。
それは邪眼を持つ――
橙色の髪の…少年だった。