シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
制裁者(アリス)――…。
戻れねえよ。
戻るわけにはいけねえよ。
戻りたくもねえよ。
目で見たことが幻覚ではなく、真実だというのなら。
これだけのことを…皆が秘匿し続けてくれたというのなら。
「戻らねえ。戻りたくねえ。
俺は絶対…制裁者(アリス)になんか…」
俺は…唇を震わせながら、櫂に言った。
横須賀港で、銀色氷皇から事実を告げられた時。
俺は皆の元にいられねえと思った。
皆の前から姿を消して、元の…血塗られた世界に戻るのが相応しいと。
芹霞の愛は手に入れられないと。
同時に思っていた。
制裁者(アリス)に還ることが、櫂を裏から支える…俺だけしか出来ねえ、"情報"の取り方だと。
俺は肉体しか使えるものがねえからって。
けれど…。
矛盾だった。
帰れねえと思って、何故櫂を補佐出来ると思うよ?
制裁者(アリス)としてしか居られねえ俺の言葉を、何故皆が…受け取れると思ってたよ?
それは…自分勝手な甘えだった。
自分で自分が不幸だと…悲劇の主役に酔い痴れながら、それでも皆との絆は、完全には切れることはねえって都合良く思い込んでいた…その愚かしい傲慢さ。
制裁者(アリス)を利用して、俺は逃げていただけに過ぎねえ。
居場所などねえと思いながら、何で他に居場所があるという前提でいたよ?
すべてがちぐはぐで。
それが判らねえ程、ただ逃げ込むことしか考えていなくて。
結局今も制裁者(アリス)に利用され、気づいたら多くの首を刎ねていて。
皆に慰められるまま、皆が傍に居ることを認めてくれたからと…人のせいにして戻って来て。
その甘さを強さにすり替えて、自分勝手に意気込んで。
凄惨過ぎた真実。
それを抱え込んでいた櫂と緋狭姉。
こんな現実、忘れられるわけねえだろう。
心に刻まれた衝撃は、悪夢となり心を苛ませるはずで。
だけど、俺に悟らせまいと…笑顔を見せてくれていた。
なあ…
これこそが強さって言わねえか?