シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
まるで夢のような映像が終わっても、それが夢ではないと言うことは俺が判っている。
心に刻み込まれたものは、永遠に残るだろう。
何より俺は、夢にしてはいけねえんだ。
ふと思う。
俺だけが知らねえ…横須賀での櫂の最期。
それはまるで、俺が芹霞にしでかしたものの再現のようではなかったのかと。
芹霞の櫂に関する記憶がなくなったのは――
8年前の光景をだぶらせたショックもあるのではなかったかと。
此処までの凄惨な記憶を共有していながら、芹霞と同じような最期を…、櫂の胸を自らが貫くことしか出来なかった緋狭姉。
それを覚悟して、受けた櫂。
8年前の当事者の俺は――
またもや何も記憶がねえなんて。
因果律は…巡るのか。
何処までも…逡巡させるのか。
それでも櫂は――
諦めず…
挫けず…
強さを求めていて。
それでも、それだけでは足りないと感じて。
強さで…俺さえも守ろうとしていて。
俺は…強さを矮小に考えすぎていた。
自分だけの世界に押し込めていた。
それは認められたい、頑張るから存在を許して欲しい…そんな甘ったれた心の裏返しに他ならず。
櫂が手に入れようとしている強さは、俺とは次元が違い過ぎて。
「俺は…今度こそ裏切らねえ」
それは何度も櫂に言った言葉ではあるけれど。
「お前を守れる…
いや、お前が大切に思うものを守れる…
そんな、強い"心"を…持ちたいんだ」
本気で思う。
本気で強くなりたいと思う。
「煌…」
そう…櫂が微笑みかけた時だった。
俺が、視界に異変を感じたのは。
それは櫂も同じだったらしい。
静止画のような風景に、
ゆらりと影が動いたんだ。
ソファには――
首を狩られた筈の男が…
新聞を読んでいる。
台所では――
胸を貫かれた筈のチビ芹霞が、やはり首を狩られた筈の女と…
笑いながらクッキーを焼いている。
意味する処が…判ったんだ。
「櫂……」
「ああ…
"再生"、だ」
櫂の震えが…空気に伝わってくる。
また…繰り返すというのか。
また…見ろというのか。
天井を見上げた俺は、
思い切り叫ぶ。
「うわああああああああ!!!」
真紅に塗れた宿業を――
受入れるために。
背負うために。
その為に…この真実は必要だというのなら。
耐えてやる。
俺は…吼えた。