シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
煌は…完全には制裁者(アリス)の記憶を消されたわけではなく、緋狭さんの思い出と絡む処を中心に、最低限の記憶があった。
しかし暗殺技術は失われ、緋狭さんが鍛え直した。
0からのスタートだった。
もしも俺が、緋狭さんの言葉に耳を貸さず、煌を仇として怨んでいたら…
俺は強さを復讐に履き違え、芹霞を目覚めさせるには至らなかったと思う。
煌が幼馴染でよかったとか、
煌なら信用出来るとか、
共に強くなるために戦おうとか、
煌を悲しませたくないとか、
そんな心は、生まれなかったはず。
悪夢は形を変え、別の形になったというのなら。
そう…
自分の意思で"変化"出来るというのなら。
俺は――
「煌。此処を抜けるぞ」
唇から血を流すほど、堪え忍んで…惨劇を見ていた煌に声をかける。
やはり…何度も再生される光景は、俺達の心を戦慄(わなな)かせるものだけれど。
「攻略できねば…俺達は永遠にこの悪夢の中。
事実と受入れることが出来たのなら…次に進まねば」
「次…?」
「ああ…。この光景は…俺視点だ。
これは…きっと…俺の記憶の再現」
此処には一緒に居たはずの俺がおらず、何度か…幻の緋狭さんが俺に呼びかけたことを考えて見れば。
ズサッ!!
目の前で…芹霞が、何度目か…胸を貫かれている。
それを直視出来ぬ俺は、顔を背けてしまった。
「意味が…あるはずだ。
"守ってはいけない"。
その意味が…」
考えろ。
"守ってはいけない"
何故そんな表現なのか。
対象は何だと言うんだ?
芹霞とその両親の惨殺。
額面通りに受け取るならば、幻影の彼らを守るなということだろう。
思わず手が出るそれをぐっと抑え、そのまま受入れろということなんだろう。
事実…そうだと思った。
だから俺達の心を痛めつけるように、試すように、ひたすら再生しているのだと。
これは…心の強さのテストなのだと。
「ニノ」
『はい、櫂様』
ニノが返答するということは、やはりこれは…ゲームの一環であるのは間違いなく、俺の記憶はただ利用されているだけらしい。
「ニノ、残り時間は?」
『お答えします、櫂様。あと、2分弱で設定の10分となります』
ああ、何度も凄惨な光景が再生されるが、実際は数分の時間しか経っていないのか。