シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
あの時――
もし私が。
そんな危険な場所に連れて行くのは、
煌ではなく…私にして欲しいと。
私を選んで欲しいと…
そう言っていたのなら。
少しは何かが変わったのだろうか。
何故、敬愛すべき櫂様の危機に私が離れないといけないのか。
私はそこまで信頼出来ない弱い部下なのか。
そう――
私の…些細な見栄や矜持をぶつけていたならば。
"約束の地(カナン)"は爆発しないですんだだろうか。
否――
何も変わらないだろう。
だからこそ、煌が妬ましいんだ。
危険であればある程、必要とされるその存在が。
何処までも…櫂様の頼りとされる煌が。
私の主は…昔から櫂様だけだ。
櫂様は横須賀で…私が必要だと言ってくれたのに。
私の忠誠心は薄らぐことはないのに。
それ故に――
――次期当主に、絶対的なる忠誠を誓え。
反応が出来なかった。
玲様に付き添えと…櫂様に言われていたのに、私は決して玲様を拒絶したわけではないのに。
私は…玲様に忠誠を誓うことが出来なかった。
玲様個人ではなく、次期当主としての玲様を…私は拒んだのだ。
私は今まで…物事を軽く割り切って考えていたのだろう。
私には主人として崇拝すべき存在が2人いる。
しかしそれは…
あくまで櫂様が頂点にいるという図式で。
櫂様がいない場合は、必然的に玲様が頂点で。
だから…
櫂様と玲様の同時頂点の図式は――
否。
玲様の下に櫂様が居るという図式は――
私の中ではありえなかったのだ。
だから、玲様が次期当主になられたのだとしても、それはあくまで櫂様の為の一時的な策の一環であり、警護団長として最終的に従うべきは櫂様なのだと…そう私は思っていた。
故の躊躇(ためら)いは…
今考えれば、玲様に対する冒涜。
私は強く優しい玲様の前で、忠誠を誓えなかった裏切り者。
私は…本当に玲様の元に居て良いのだろうか。
そんな疑問が心を占める。