シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


8年前のことの直視は…辛いけれど、再確認できたと思う。


幸せと絶望。

覚悟と変化。


そして…記憶に囚われすぎないこと。

生きているだけで、素晴らしいということ。



原点回帰、だ。



人は人によって助けられる。


今まで俺は、煌の笑顔に力を貰ってきた。


願わくば――

煌にとっての俺もそうでありたいと思う。


元来た崖道を走って戻る途中、煌が鼻歌を歌って袋を覗いた。


「何だよ、これは!!!」


中から出て来たのは――…


「ぷはぁぁぁ」


大きく開かれた……前歯の長い、小さい口。


それは――


「僕をこんな処に閉じ込めるなよ!!!

ふぅ…ふぅ…ああ苦しかった」


ふさふさな尻尾を持つ鳶色リス1匹。

ただし…下膨れのまま。


「は!!? お前出番終わったじゃねえかよ、何でいるんだよ!!! お前を芹霞に近づけたら、お前盛るじゃねえか!!! ぎゅうとちゅうするのは、お前の方じゃねえか!!」


「失礼だな!! お前と一緒にするなよ!!」


「失礼なのはお前だろうが。しっしっ!!! お前帰れ、帰れ!!!」


「芹霞諸共皆消えてしまったのに、どうやって帰れと言うのさ!! このワンコは、本当に情がないね!! 愚かすぎるのかな!! 許せないね!!」


「お前何…鉄の胡桃を持参して…だから袋が異様に重かったの…うわっ、こんな狭い場所で股間狙うなよ!!」


「えいえいえいッッ!!」


「どわーッッッ!!!」


「あはははははは」


笑い声響かせながら俺達は走る。


そしてその終点で待ち兼ねる人影。


「お帰り~な、ダァーリン♪ 

愛しの家から祝ご帰還~♪」


シルクハットに金髪。

半纏を着た情報屋。


今度は帽子に『必勝』とかかれた手ぬぐい巻いて、

目には…瓶底眼鏡。


思い切り…ガリ勉姿だ。

対するクマは…iPhoneゲーム。


流れる音は…テトリスだ。


「封筒だ、確かめてくれ」


俺達は無反応にて、封筒を渡す。


「何や無視かいな。寒い中、コタツ片付けて…ブルブルして健気に待ってたのに~」


そんな事情、俺には関係ない。

とりあえず、2人の姿は…無視だ。


「よし、正解や。では…翠はんとこGOや。あと10分やさかい、頑張ってな~」


「頑張れ~」


声だけ聞こえたクマは、顔を上げずにゲームに夢中だ。

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