シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「だ、だ…!!?」
「でも僕は、相手が君だと判って狂いかけた。君だから抱きたいと思ったんだよ。誰でもいいってわけじゃない」
僕の正直な気持ちに、ぼっと芹霞が赤くなる。
「当主に口に入れられて、僕はそれは咄嗟に歯の裏側につけて回避したつもりだったんだけれど、他数個は呑み込んでしまったんだ。それで君を…」
恐ろしい。
当主は、薬を盛ってまで…紫茉ちゃんを抱かせようとしたの?
全て呑み込んでいたのならどうなっていただろう。
止まろうとする理性は残っていたのだろうか。
「玲くん、それはもう言うのはナシ。あたしは玲くんの自制心のおかげで何もされていない。あたし…苦しそうな玲くんが、早く元に戻るようにバシバシしちゃったの、ほっぺ」
ジンジンほっぺは、芹霞の仕業だったらしい。
S.S.Aでの煌を思い出す。
もしも今回も、芹霞が怪力になる薬を飲んでいたら…僕はこんな程度では済まなかったかも知れない。骨が砕けて、顔の輪郭が完全に変わったと思う。
だけど芹霞をこれだけ必死にさせたのは僕が悪いのだし、こうなるまで叩いて元に戻してくれたことはありがたいんだ。
「愛のムチだね。教訓にしなきゃ」
僕がそう言うと、芹霞は複雑そうに笑う。
そして――
「玲くん…他の女の人には…あんなことしないでね」
泣きそうな程に真剣な顔で僕に訴えるから。
「するなら…あたしだけにして?」
"女"の顔で僕を煽るから。
僕に縋るようにして抱きついてくるから。
「どういう…意味?」
僕の声が震えてしまった。
そんな言い方されたら…
「あたしは…魅力ないお子ちゃまだけど、だけど…一応、女の子だから…。だから怖かった反面…ちょっと嬉しかったりして」
僕は勘違いしそうになる。
「薬のせいだとしてもね」
芹霞の心は完全に僕のモノだと。
僕に抱かれてもいいのだと。
「いいの?」
「え?」
「僕、君を抱いても」
一瞬、沈黙が流れて…
「え、ええええ!!!?」
芹霞が飛び上がって驚いている。
そこまでの意味合いはなかったらしい。
「玲くん、玲くんは…○△□※◇!!!」
何を言っているのか判らないよ。
まあ…"清く正しく"…みたいなことを言っているんだろうけれど。
そんなに怯えた目で見ないでよ。
そしたら僕、こう…言うしかないじゃないか。
「ふふふ、冗談」
って。