シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

そしたら芹霞はほっとした顔を見せるんだ。

今回は複雑そうな顔つきだけれど。


少しは独占欲を見せてくれた分だけ、一歩前に進んだとここは喜ばないといけないんだろうけれど…一気に飛躍しすぎてしまった分、落胆が大きく。

そして…僕に灯った欲の火は、燻ったまままだ残っている。

さっきの…キスとは言えぬ余韻があるままに。


欲しいな。

もっと"女"の芹霞が欲しいな。

"男"の僕を求めて欲しいな。


欲はつきることなく。


だけど僕の顔は――

鏡の中の僕の顔は、ぷっくぷくで。


芹霞を求めて欲でぎらぎらした目つきで。

まるで盛る寸前の、野生の下膨れリス。


「こんな顔じゃない時…君の心の準備が出来た時、さっきの冗談を撤回させて貰うよ」


僕は鏡を背にして洗面台に腰掛け、芹霞を持ち上げて僕の膝に跨がらせた。


「え、何?」


よく聞こえなかったらしい芹霞が、その格好に顔を赤くさせたのを契機に、僕は親指で芹霞の目を塞ぎ、後頭部を固定して。


「いつもの僕を…思い出して?」


そして桜色の唇を奪う。


僕の頬はまた激痛にジンジン始めたけれど、痛い以上に…僕は君が好きだから。

耐えられる。


「玲……んんっ…ふっ…」


君の感触に、君の熱に痛みは麻痺されていく。


僕の顔…どうなってもいいから、君を味わせてよ。

啄むものじゃ物足りないんだ。


麻痺していく。

僕の痛覚より…愛情が勝っていく。


五感なんて脆(もろ)いモノだね。

意志一つで…制御出来るんだから。


もっと長く…

ねえ、もっと深く…。



「…逃げない。…言った…でしょう?

…舌…絡めて…?」


「ん……んふ…ぅっ…」


「……ふふ。んっ…いい子…」


ねえ…少しでも僕が感じる?

僕の想いが感じられる?


僕を拒まずもっと感じてよ…?


そのまま目を瞑って…

本当の僕を感じて…?


僕は…こんなに近くに居るんだ。


「…れ……んっ…玲…はっ…」

「可愛…い…んっ…」


口端から流れた涎を啜りながら、舌の絡み合いは深くなって。


「やらし…ね。…この…格好…」

「ん…やっ…」


ああ、どうしよう僕。

止りそうにない。
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