シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
そして。頬の痛みを抑えた人間代表の僕と、猫代表のクオンとの素早さ勝負は――
「玲坊ちゃまに何をするか、この猫!!!」
「フギャーッッ!!」
荒ぶる百合絵さんの乱入にて幕を閉じた。
百合絵さんは凄い。
忠誠心も凄いけれど…まず登場からして迫力が凄い。
思わずクオンに同情してしまう程。
クオンは百合絵さんの姿をみると条件反射的に怯えて逃げ出そうとし、僕への戦意を失った模様。
それを芹霞と由香ちゃんが捕まえ、説教していたが…この2人には何処吹く風。
欠伸をしたり、耳を掻いたり、挙句寝だした。
無意味なことに疲れ果てた女2人が、諦めて去るまでその調子。
僕の体は、芹霞の放ちまくったボンドの残滓がこびりつき、更にはクオンの埃で黒く汚れてしまっていた。
その姿で現れた僕を見て、更に身を捩って笑い続ける紫茉ちゃんに了承を貰って、お風呂に入らせてもらうことにしたけれど、何故か…寝ていたはずのクオンまでついてくる。
しかも僕の後ろではなく、前に着きたがる。
あくまで僕を引き連れたいらしい。
そして。脱衣の時は勿論、
カポン。
ザー。
僕が洗っている間も、瑠璃色の瞳でじっとこっちを見ている。
「………」
恥ずかしい…んだけれどな。
そんなじっくり見られたら。
僕の裸体を見て…鼻で笑ったような気がしたのは、気のせいだと思っておこう。
本気に思ったら…人として、男として…何だか落ち込みそうだ。
カポン。
ザー。
「………」
まだ居る。
「そんなに…お風呂入りたいの?」
「ニャア」
普通に聞けば、普通に鳴き声が返る。
「今まで僕と喧嘩していたっていうこと、忘れてない?」
「ニャア」
僕の言葉を理解しているのかな、理解してないのかな。
気まぐれ猫が考えることはよく判らない。
まあ…お湯でもかければ、満足して出て行くだろう。
そう思って、洗面器に入れたぬるま湯をクオンにかけたけれど。
予想が外れた。
「ニャアアアン」
鳴きながら、僕の真正面に座り、背中を向けたんだ。
訝る僕がただ見ていれば…振り返って再び鳴いて、また正面を向いてじっと座っている。