シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
これは――…
「何で僕が、お前を洗う事になるんだよ」
洗われて当然というように、猫はつんとした顔のまま。
「お前…何処の王様だよ」
わしゃわしゃとシャンプーを泡立て、クオンの毛を丁寧に洗う。
意外すぎるほどクオンはおとなしく、きっちりと僕に洗われている。
毛並が黒に近い灰色からピンク色、そして真っ白に変わった瞬間。
僕は妙な達成感を感じて嬉しくなった。
「よし、綺麗になったぞ」
毛先にトリートメントをつけてあげる。
紫茉ちゃんのだけれど。
「基本…僕、動物や子供は好きなんだよね…」
一緒に湯船に入ろうとしたら、クオンが浴室から出て行った。
と思ったら直ぐ戻って来て。
口に入浴剤を咥えている。
「…薔薇の花弁入り入浴剤? これに入りたいの?」
「ニャア」
王様猫は随分…優雅な趣味をお持ちで。
「だけどこれ…紫茉ちゃん家のものだよ?」
「ニャア」
クオンは手でパンパンと入浴剤の袋を叩いて、早く湯の中に入れろと急かす。
「ニャア、ニャア」
後で…紫茉ちゃんに謝っておこう。
ピンク色に染まった浴槽には、小さく千切られた薔薇の花弁が浮かんでいる。
クオン様は大変満足そうだ。
もうここまで来たら、最後まで面倒を見よう。
お風呂から上がったら、ドライヤーで毛を乾かし、丁寧にブラッシングをしてあげた。すると見事に純白のふさふさ猫だ。
揺れる長い毛。
クオンも喜んでいるように見える。
「……師匠を下僕扱いしているニャンコ様だけれど…師匠の"ゴールドフィンガー"には大満足のようだね。しかし何をもって師匠が、器用な…魔法の指を持っていると判ったんだろう」
綺麗になったクオンが、芹霞の首に巻きついた。
「ああ、クオン。いい匂いで気持いい~。ふわふわ~ふさふさ~」
そう芹霞がうっとり顔で、クオンを頬ですりすりと撫でたら、
「ニャアアン」
それはもう蕩けるような幸せ顔でクオンは鳴いた。
「師匠…」
「………」
「師匠…?」
「…ん、何?」
「相手は…ニャンコだからね?」
「………」
「師匠は同じ種族で正式な恋人だからね?」
「ん……」
「師匠…」
「………」
「…凄い顔だぞ?」
凄い顔。
僕は項垂れた。
回復結界を強力にして、更に氷皇がくれたという…鎮痛&抗炎剤の氷を溶かした水を飲み、湿布もぺたぺた張って。
少しでも早く頬が元に戻り、僕だってクオンのように頬ですりすりされたいと…思わずにはいられなかった。
喋るのを少し控えて頬を安静にする分、由香ちゃんから教えて貰った"ついった"をやって、憂鬱さを紛らわせようか。
◇◇◇
《UpperWorld 005》