シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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あれから1時間近く経った。

僕はお喋り禁止ということで、客間で1人放置されている。

芹霞は紫茉ちゃんとラブラブみたいで、由香ちゃんまでそれに加わって室外に消えてしまった。

瞬間接着剤を買いに行ったという桜も、桜を探しに行ったという百合絵さんも戻ってくる気配がない。


桜…お前の帰りが遅いおかげで、寝ている間の"歯に異物装着"自体は免れた。


「ナイス…桜」


芹霞の癖のように見えない桜に向けて親指突き出し、反対の手で湿布越しの頬をすりすりした。


放置プレイは寂しいけれど、安静の甲斐あってか痛みは大分引いてきた。

月長石のブレスレットから解放した、純なる0と1を詰め込んで作った強力な回復結界の他に、鎮痛&抗炎効果があるらしい氷水を絶えず飲んだり口に含んで冷やしたり。

虫歯で頬が腫れ上がった子供のように大きい湿布を頬に貼ってれば、よくならない方がおかしいと思う。

それくらい必死に回復治療に専念した甲斐があってか、当初…ぱんぱんに腫れ上がった醜い下膨れ顔も、すこし良くなった気がする。


願わくば、客観的にもそうであるように。

主観だけではありませんように。


このままよくなれ、僕のほっぺ。

その為なら1人も寂しくない。


氷水がなくなれば片隅のクーラーボックスから氷を補充する。


蓋を開ける度に、内側で揺れる青い封筒。

…僕は何も見ていなかった、うん。


客間のソファに腰掛けた僕は、ストロー付きの鎮痛&抗炎氷水を飲んでから、再びテーブルにある青いパソコンを操作する。


カタカタカタ…。


――師匠…紫堂が停電になって、突然バツンと電源が落ちてしまったんだ。最近トラブル多いんだよ、このパソコン。今回は停電が祟った可能性が強いけど。ハード、大丈夫かなあ?


僕が今見る限りは、正常の動きをしている。

即席に作ったプログラムも正常に終了しているようだ。

だが、その終了と同時に読み込むはずの、データを図表で描画するプログラムまでは動いていなかった。

僕が見る限り"異常"と思える痕跡はそれだけで、特に操作に違和感はなく。


紫堂本家の停電など初めて知ったこと。

電力がストップなどすれば、僕がまず感知しそうなものを。


感知できないほど、僕に余裕がなかったんだろうか。

それとも…久涅の"無効化"が邪魔していたんだろうか。


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