シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
正直、ヘリの中での会話は記憶にない。
当主や久涅の声が、興奮に上擦っていたのだけは覚えている。
外道が。
そう憤りたくなるのを必死に堪えていたのは、きっと私だけではないだろう。
紫堂本家に着くと、意識を失われた芹霞さんを腕に抱き、玲様は能面のような無表情な顔で、足早に紫堂本家に入られた。
私が居ない間に芹霞さんが使用していたという客間に入り、玲様はベッドに芹霞さんを寝かせる。
電気はつけずただ月光だけが差込む部屋の中、玲様は…芹霞さんの寝ているベットに腰をかけ、その頬を指で撫でながら…何も言葉を発しない。
玲様の無表情の仮面が取れたのは、芹霞さんのおかげかも知れない。
しかし愛しさよりは切なさ滲むその顔は、青白く憔悴仕切っていた。
「…桜。大丈夫だよね…?」
顔の向きはそのままで、鳶色の瞳だけが私に向いた。
「僕は…信じていていいんだよね…?」
確認のように念を押されるその声は…か細く震えていて。
玲様は…櫂様の意思を受け取ったのだろう。
それ故に、信じている。
櫂様達は、滅ぶわけはないと。
「玲様…大丈夫です。信じましょう」
私は、きっぱりと言った。
それで判ったはずだ。
私が、櫂様から詳細を聞いていたという事実を。
本当は――…
それでも不安などとは決して言うまい。
それはきっと玲様も同じ事だと思うから。
不安だからこそ、否定する誰かが必要なんだ。
否定することで希望が生まれるから。