シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
うわ…。
本体に、ブチャイクワンコの…きらきらシールがべったべた。
「紫茉ちゃん、素敵!!」
「ふふ、外だけじゃないんだぞ、ほら中にも…」
壁紙からアイコンから全てがあのワンコ。
こっちをぶすっと睨み付けている。
「由香。無線でネットが出来るから…遠慮なく使え?」
「そそ、由香ちゃん。使ってみて?」
2組の目がきらきらで。
由香ちゃんは大きな溜息を落として、だるそうにカタカタキーボードを使った。
文字化け用の変換ツールというものが、無料でネットに転がっている。
そんなものの利用で十分だろう。
「うわ…マウスカーソルのブチャイクワンコが、くるくる踊ってハート飛ばしてる…。いらないよ…どっかいってよ…。このアイコン、マウスでぐりぐりしたい…」
由香ちゃん、僕もその気持がわかるよ。
だけど…それをきらきらの目で見ている女の子達もいるから、やめようね?
僕…遠くから、目の焦点ぼかして、応援しているからね。
そして――
「…できたよ」
げっそりとした顔の由香ちゃんが、"メモ帳"ファイルにて、正しい言葉を羅列していてくれたようだ。
『タスケテ』
『イタイヨ』
『ユルサナイ』
『ココカラダシテ』
『ツライ』
『キエタクナイ』
「ひっ!!!」
また…紫茉ちゃんに傾く芹霞の体を、僕の方に捻じ曲げた。
「芹霞に来たのは…394人分の"凶言"かな、それとも同一人物なのかな」
「紫茉ちゃん、リアルに数出さないでよ~。あたし…394人からなら嫌だよ!! メルアド勝手に知られてる上に…更に394人も同じ状況にいるなんて…気味が悪いよ!! それなら1人がまだいい」
「神崎に対しての恨み言じゃないのがまた嫌だね。それなのに何で神崎に来るんだろう。ぼやきというか…それこそ、とりとめない"ツイッター"のようなものが」
「今、こうして会話している間に、50件近く受信してる。どれもこれもが文字化けした同じようなメールだけど…多分内容は似たようなものだろう。ああ、変換してくれたの? うん、予想通りだね。あ、今、一度に23件来た。これも文字種が一定していない文字化け状態。この受信具合は…おかしいよ。携帯を意識していない、まったく」
アドレスがないから、拒否設定が出来ない。
だけどあえてするなら、全拒否。
それでも受信する芹霞の携帯。
「何、何でくるの!!?」
携帯の制約を超えて送り付けてくると言うならば、
「師匠やっぱり、パソコンからの特殊プログラム…」
或いは――…
僕は嘲るように言った。
「電脳世界…から直接、とか…かもね」
可能性の1つだけれど。