シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

「何であたしの携帯に!!? 0と1でもないし!!」

異常を示す携帯は芹霞のものだけだった。

僕達個人のもの、或いはiPhoneには異常はみられない。


つまり、芹霞だけ狙い撃ちされた状況だ。


「0と1の機械語は電脳世界の言葉だけれど、人間世界において、それを解する言語は多々ある。この文字化けしているjisコード、utf-8コード、qprintコード、urlエンコードなどは…0と1の2進法から派生したもの。

文字化けというのは、送信側と受信側の文字コードが違う場合におこるもので、携帯同士では、まず此処までの数の文字化け受信は考え難い。可能性的には、芹霞の携帯が故障したとも考えられるけれど。突然変異、みたいな?」


喋りすぎか?

頬がジンジンするのを抑えて、僕は言った。

もごもご感が拭えない。


ああまた…芹霞が愛護の眼差しだ。

紫茉ちゃんまでそうだ。


和んでいる処悪いけれど…

僕、リスじゃないから。


「…由香ちゃん、メール全拒外して、芹霞にメール送ってみて? 芹霞も返信して。ん…ね、きちんとも文字化けしないで送受信出来ると言う事は、機械がおかしいわけじゃない。

ということは、この文字化け送信側が変なんだ。メルアド伏せるものと併せて、文字コード種をランダムに変えて送信するプログラムは不可能ではないけれど…芹霞に特定した上、身元を隠すなんて細かいプログラムを作りこんだ割には、文字化けばかりを寄越すとは、なんともお粗末だ」


「ふむふむ、確かに。文字化けになる要素がある時点で変だね」


由香ちゃんがうんうん頷いた。


「だろ? 作り方が甘いというのか…プログラマーとして考えが素人臭いんだ。

それなのに、携帯でメール全拒を無効に出来るとか、物理的制約を超えている部分があるのが、妙にひっかかる。玄人臭い処がね。

こうした技術的な部分は、人間界では知識や技術が必要だけれど…電脳世界では普通だ。

例えば…ゆんゆんを動かすのには沢山のプログラムが必要だけれど…電脳世界における僕は、プログラムを組んで動いていない。人間の普通の動きには、プログラムなんて必要ないからね。だけど見ている人の目には、僕の動きは実に緻密で巧妙なプログラムに基づいた動きに映るだろう。

あの時僕は、由香ちゃんへの僕の意思伝達方法を、目で判る"動き"に託した。だけどもし、言葉という動かない"文字"に頼っていたら?

…これは1つの可能性だけれど…。電脳世界に、より人間らしい…機械のことなど何も判らない"何か"がいて。より人間語に近い言葉を、人間界とを繋ぐ芹霞の携帯に送信することが出来たのなら」


電脳世界に染まりきれない"何か"。

もしくは…

電脳世界に染まりつつある"何か"。


「より普通の人間に近い自我の…一方的なSOSであれば、"文字化け"だろうと関係なく、いや…どうでもいいのかもしれない」


状況さえ、訴えられれば。
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