シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「うっ…」


桜ちゃんが嫌々をするように頭を振れば、その隙に玲くんは桜ちゃんを押し倒すような形で、上から首を押さえつけた。



「玲くん、これだよ。これが桜ちゃんの耳に…」


「これは…この針は…」


針を見た玲くんは驚いた顔をして。



「桜を操ったのは――


――副団長かッッ!!」



そう叫んだんだ。



「は!!? 紫堂の…副団長!!?」


あたしは、過去数回顔を見合わせたことのある、副団長を思い出す。

童顔の…小柄な男だったはず。


――団長、お戻り下さいッッ!!!


あれ…?

桜ちゃん…何でそんなこと言われたんだっけ?


駄目だ、混乱しているようだ。


とにかく彼は運転をよくしてくれて。

確か退院後、"約束の地(カナン)"に初めて行く時、病院から連れて行ってくれたのも…。


あれ?

あたし、何で入院してたんだっけ?

ええと…心臓なのは判るけれど、あたし…心臓…どうしたんだっけ?


何だろう、曖昧な記憶は。


誰かの笑い声が聞こえてきそうなのに…判らない。

それが誰のものかすら…判らない。


大切な記憶だと、忘れてはならないと…それだけは思うのに。


何で、突然"約束の地(カナン)"に行くことになったんだっけ?

何か船に乗って…その船が…。


あれ…あの船、転覆して…ええと…海に落ちて。

変なものが泳いでいたのに…どうしてあたし助かったんだろう?


鮮明な記憶と曖昧な記憶が交錯する。


駄目だ…。

全て混乱している。


その時、視界に何かが走って。


「桜、待て…桜ッッッ!!!」


玲くんの手をかいくぐって、桜ちゃんがベランダから逃げ出した。



「ニャアアアアン」


クオンまでもが桜ちゃんを追って、勇ましくベランダから飛び降りた。


は!!!

いけない!!!


クオンは!!!

< 478 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop