シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「うっ…」
桜ちゃんが嫌々をするように頭を振れば、その隙に玲くんは桜ちゃんを押し倒すような形で、上から首を押さえつけた。
「玲くん、これだよ。これが桜ちゃんの耳に…」
「これは…この針は…」
針を見た玲くんは驚いた顔をして。
「桜を操ったのは――
――副団長かッッ!!」
そう叫んだんだ。
「は!!? 紫堂の…副団長!!?」
あたしは、過去数回顔を見合わせたことのある、副団長を思い出す。
童顔の…小柄な男だったはず。
――団長、お戻り下さいッッ!!!
あれ…?
桜ちゃん…何でそんなこと言われたんだっけ?
駄目だ、混乱しているようだ。
とにかく彼は運転をよくしてくれて。
確か退院後、"約束の地(カナン)"に初めて行く時、病院から連れて行ってくれたのも…。
あれ?
あたし、何で入院してたんだっけ?
ええと…心臓なのは判るけれど、あたし…心臓…どうしたんだっけ?
何だろう、曖昧な記憶は。
誰かの笑い声が聞こえてきそうなのに…判らない。
それが誰のものかすら…判らない。
大切な記憶だと、忘れてはならないと…それだけは思うのに。
何で、突然"約束の地(カナン)"に行くことになったんだっけ?
何か船に乗って…その船が…。
あれ…あの船、転覆して…ええと…海に落ちて。
変なものが泳いでいたのに…どうしてあたし助かったんだろう?
鮮明な記憶と曖昧な記憶が交錯する。
駄目だ…。
全て混乱している。
その時、視界に何かが走って。
「桜、待て…桜ッッッ!!!」
玲くんの手をかいくぐって、桜ちゃんがベランダから逃げ出した。
「ニャアアアアン」
クオンまでもが桜ちゃんを追って、勇ましくベランダから飛び降りた。
は!!!
いけない!!!
クオンは!!!