シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
と思ったら、
「馬鹿は馬鹿でも…オレンジ色の馬鹿はなあんだ?」
ぬーっと、上から真っ逆さまに降りて来たのは。
「チビ久遠…!!? お前、久遠ニャンコの化けた姿か!!?」
ピンク色の猫耳。うねる長い猫の尻尾。
イイ男の顔は、小さくても将来有望な風格がある。
だがそのチビ久遠の笑い顔は――。
「……。チビ久遠…。いくら何でもそれは、成長バージョンの…女何万人斬りの本人が可哀相だ。お前さ…"約束の地(カナン)"で頑張っている本人のこと考えろ」
「………。煩いな。そういう決まりなんだよ。あっちでもこっちでも、人の笑い顔を見て、気持ち悪いだの化け猫だの…。
仕方ないだろ、オレは…謎めいた"チェシャ猫"なんだから」
「はあ…」
何やら、チビ久遠様はご機嫌斜めのようだ。
「!!!?」
後ろから殺気。
身を躱せば、黒いシルクハットが飛んで来て。
「アホハットか!!!?」
そう思って振り返れば…
「チビ…櫂…」
しかも何だ?
頭のそれと…尻尾は…黒い豹…?
帽子はくるりと櫂の手に戻って来たようで。
「ひゃひゃひゃひゃ」
突然笑いだした。
「どうしたよ!!?」
「俺は、気狂いの"帽子屋"だ。ひゃひゃひゃ…。何でこんな役かは知らないが、とにかく…ひゃひゃひゃひゃひゃ」
お前…可哀相に…。
折角幼くても整った顔してんのに、そんなんだったら…、本人見たら深く嘆くぞ。
だけど判ったよ、このルール。
白兎…チビ玲以外を攻撃しないといけねえんだろ?
そう臨戦態勢に入ると…こいつらの表情がすっと冷えたようになった。
それは素人のもんじやねえ。
巫山戯(ふざけ)た格好からは、到底考えつかないような戦意だった。
戦意が1つに纏まり、空気を震わすほどに膨れあがる。
来る!!!
そう思った時――
チビ共は一斉に動いた。
「は…!!!?」
一斉に…逃げてしまったんだ、俺の前から。
攻撃じゃなくて、逃走?
………。
「そういうことかよ…」
俺は自分の拳を、反対の手の平に打ち付けた。
「今度は俺が鬼っていうことか? 上等だ…!!!」
進むは緑の迷路。
追いかけるのは、見慣れた顔のチビ共。
「いたッッ!! チビ久遠!!!」
尻尾を捕まえると、チビ久遠は俺の顔を引っ掻いて逃げた。
反撃は許されているのか。
触るだけではカウントされないのか。
だとすれば…攻撃は必須。