シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「"約束の地(カナン)"のおかげで、現地点での勢力図が浮き彫りになった。誰が俺側の人間か、誰が俺に抗する人間か。
なかなか、皆演技達者だということが判った。
全てが見抜けていなかった俺は、まだまだのようだ…」
落込んでいるような素振りを見せながらも、青い男の笑いは明朗だ。
「東京から動かずに"隔離都市"の状況が判るということは…"約束の地(カナン)"に"犬"でも忍ばせたか」
青い男は肯定とも受け取れるように、今度は薄く笑い、話を変える。
「五皇にとって一番の悩み処は後継の問題。卓越した才能を見つけ出せねば、生涯五皇の"ルール"に縛られることになる。それを幸いととるか不幸ととるかは、本人次第だ。
それに…選ばれた人間が幸せになるとは限らない。まあ、不幸になるとも限らないが。何せ…元老院に従えば、金と名誉と権力は困らない」
くつくつ、くつくつ。
青い男は、愉快そうに笑い続ける。
「そう思えば、追従を嫌う…名家の出の各務久遠などは、白皇職など足枷だろう。どちみち白皇は後継者に恵まれていなかったらしい。しかし白皇が執着する程の才能は、14年前の"あの時"、お前も感じただろう?」
送られるのは意味ありげな眼差し。
「ああ…飛び抜けていた。だからこそ言霊で死者を返すことが出来る。
しかし…そんな各務久遠を生かす"約束の地(カナン)"は今…」
「『気高き獅子』を始め…皇城翠も…ああ、これは既に知っているのか。外界組だけではなく、"約束の地(カナン)"組…久遠達は生きている。全てを生かす為に、アカは"約束の地(カナン)"に行った。恐らく『気高き獅子』を伝達者(メッセンジャー)にして、アカの結界が発動されたはず。
五皇は支配する力に対する耐久力が強い為、その力の攻撃を受けた時は、意識なくとも自動的に結界が張れる。
爆発、炎…その中にアカを連れて入ることにより、第4層の堅固な物理的防護壁と共に、意識ないアカの体に守られる。あとは魔方陣を保護すればいいだけのこと」
何でもないというように、青い男は言いのける。
彼は髪を掻き上げながら言った。
「そして瓦礫交じりの海の底で、久遠に魔方陣と緋狭を守らせているのか?」
「空間が窮屈なら広げればいい。ちゃんとツルハシも用意した。ちゃんと見つけられればの話だがな。久遠の部下には、体力自慢の怪力の子供がいる」
男は心底愉快というように、声をたてて笑った。
いたぶって遊んでいるような…そんな残虐さも見え隠れする。