シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

攻略 櫂Side

 櫂Side
*******************


煌が戻ってこない。

帰りは迷路を通っているはずだが、すぐに抜けきれない世界が拡がっているんだろうか。


「ねえ、ワンコの煩悩って、聖人並み?」


カリカリカリ…。

カリカリカリ…。


いつもと違った意味でカリカリ響く中、翠の問いに答えたのはレイ。


「馬鹿だな、猿。イヌは畜生、人間じゃない。僕とは違って、イヌの頭の中は邪念で一杯さ!!」


………。


レイ。

お前は人間だと言い張るつもりか?


あえて無言を貫く俺。翠は溜息をついた。


「だったら…暫くは帰ってこないかも。だけどさ、帰りはまだ良いんだよ、帰りは。きっと全問正解なら…そんなに酷いことはされないだろうし。俺は…全問正解なんて出来なかったから、それは必死に逃げて逃げてここに行き着いて、書いては…テトリスやって…"魔の永久運動"。ぐすっ…」


"逃げて"


追いかけられるのだろうか。

正解率に応じて。


誰に追いかけられるのか聞いても要領を得ない。

都度変わっているようで。


「最悪なのは、迷路で暫く立ち往生してると…ダースベイダーとターミネーター…だっけ? "約束の地(カナン)"のゲーム後に出て来たあの音楽に乗せて、青い奴と赤い奴が出て来たら。いいか、そうしたら逃げることだけ考えろよ? 目茶苦茶強い上に…残虐だから」


………。


翠には悪いが、先に情報を収集できて良かった。

出て来るらしい、此処でも"彼ら"が。

少なくとも、翠が怯えるくらいの活躍はする。


「手放したくなかったのに…」


翠の目にじわりと涙。


「何をだ?」

「悶える…セーラー服の葉山…。他イロイロ…」


悶える…桜?


「猿。僕がいるんだから、もう大丈夫さ!! 僕は力持ちだし頭もいいんだ!! 僕もこっちが終わったら、テトリス組に参戦するからね。迷宮抜けられないあんな馬鹿犬より、僕の方が役に立つよ。大船に乗った気でいろよ?」


レイは、得意げに反らした胸を小さな手で叩いた。

トンまでにはならぬよう減じられたブロックだけれど…本当にあれを、あんな小さな手で支えて並べるつもりなんだろうか。


そんなことを思いながら、煌が向かっているだろうテトリス台を眺めれば、偶然にも…煌が手を振っているのが見えた。


それに手を振り返して、俺は紙を持って立上がる。

< 503 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop