シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ふふふ、こんにちは」
にっこりと笑う芹霞の格好は、青いワンピースに白いフリルのついたエプロン。
頭には大きな大きな赤いリボンをつけていて。
不思議の国のアリス…か。
「あんた、随分と泣き虫だね。あたしは神崎芹霞。あんたの名前は?」
どくん。
俺の記憶が刺激される。
――芹霞ちゃん、だあい好き!!
俺の顔を覗き込んでくる芹霞。
「あれ? お口きけないの? お名前は?」
「しどう…かい…」
「カイって言うんだね。よろしくね」
スカートの裾を手で広げて、ぺこんと頭を下げた。
「カイ、あたしがまもって上げるね」
愛しい記憶が、目の前で重なるだけで…涙が出そうになる。
あの頃の芹霞が此処にいて。
俺を忘れた芹霞と、今ここからやり直せたらと…馬鹿みたいに期待する俺が居る。
――芹霞ちゃあああん!!
原点だ。
俺の恋心の…始点だ。
眩しい笑顔がそこにあって。
俺だけを見つめてくれるその黒い瞳に…俺は縛られたんだ。
12年間、ずっと――…。
幸せな幸せな時間。
時に辛くて苦しかったけれど、
芹霞が居るだけで俺は――…。
「カイ、おいで? 一緒に居よう?」
芹霞が昔のように手を広げた。
温かくて綺麗で、永遠に…俺だけのものだと…そう思っていた。
俺だけを好きでいてくれると。
俺だけを見つめ続けてくれると。
幸福は…崩れることはないと。
そう信じていたあの頃。
「カイ、大好きだよ?」
庇護ではなく、男として。
――紫堂櫂を愛してる!!
俺を――
愛してくれると。
「カイは? あたしのこと好き?」
俺だけの…お姫様…。
好きで好きでたまらなくて、
愛しさばかり溢れ返る。
こんな昔の小さな姿であろうと、
俺に微笑みかける芹霞への愛しさが募るんだ。
どれだけ俺は、芹霞を渇望しているのだろう。
どれだけ、愛しているのだろう。
欲しくて仕方が無い、俺の姫。
好きだよ、お前が。
12年間、ずっと――…。
だけど――
――玲くんが好きです。
「くっそーッッ!!!」
俺は歯軋りをして、
その芹霞を突き飛ばした。