シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
『ワンワン、ぎゅう~』
突如響く忌まわしき俺の声に、俺はびくっとした。
『ワンワン、ぎゅう~』
聞こえてくる場所は――…。
「くっそ…あの情報屋…!!!」
俺は、その"着ゴエ"に設定されたiPhoneを取った。
『櫂、当然迷宮入り。ニャンコに馬鹿にされた』
不機嫌そうな煌の声。
「あんな奴は放って置け。いいか、そのまま真っ直ぐ進め。今俺が風を巻き上げたの判るか?」
『ああ、竜巻が見えた』
「よし。じゃあその前に立て。そして…お前の増幅の力を貸せ。此処からそっちに向けて道を作る」
『あああ!!?』
俺達の通った痕跡が残るというのなら。
「煌、頼むッッ!!!」
『お、おう…』
俺はiPhoneを口に咥え――
両手で風の力を全解放させた。
突如、ぐうんと風の勢いが増した。
面白い程延びる俺の力。
緑の光に、煌の赤い光が混ざってくる。
そして物理的な抵抗がなくなった。
見れば…遮るものなど何もない、綺麗な広域。
向こうに見えるは――橙色の頭。
『お前…どうするよ…この道…』
まだ電話は切れていないらしい。
俺は口から離し、電話を手にした。
「残念ながら、全正解の道までは巻き込めなかったな。だが。行きも帰りも同じ道へと単純になった分、此処は――"混沌(カオス)"となる。覚悟しろよ? 煌。テトリスに着いたら連絡寄越…いやいい、こっちから10秒後に連絡をする。いいか、10秒だ。10秒でこの迷宮は突破しろ。レイを出せ」
『は? リス? 何で…『もしもし、僕頑張るからね!! 報酬の胡桃は倍でね』
タダとは言わない、リスだ…。
「ああ、判った。それからお前が好きな芹霞が出て来て、煌がふらりとなったら、煌をカリカリして目覚めさせてくれ。煩悩滅殺だ」
『煩悩滅殺だね!!? 僕に任せてよ!!』
半ば興奮した声から想像するには、レイは頼られることが嬉しいらしい。
「煌に代わってくれ」
『判ったよ!! ほら、煩悩だらけの発情犬…『おい、櫂。こいつに何言うよ?』
「保険だ。いいか、芹霞は無視しろ。もしもレイが芹霞にふらふらするようなら、お前が引き留めろ。煩悩滅殺だ」
『おう…煩悩滅殺だな』
「では10秒後」
そう笑って電話を切る俺。
これでいい。
煌ならば、攻撃や捕獲はすぐに終わる。
問題なのは、ネコ耳芹霞に惑わされて道草を食うことだけ。
だったら、煌とレイ…互いが監視しあえばいい。
煩悩を互いが消しあえばいい。