シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ニノ、10秒後、煌に繋いでくれ」
『畏まりました』
その時だった。
「………ん?」
目の前にぞろぞろと小さい"何か"が現われて。
「どうしよう…隠れる処なくなっちゃった」
ウサギ耳とリスの尻尾の、小さい玲。
今し方、電話したばかりのレイの声より幼く高い声音だ。
「ああ…。後先考えないでこんなことしでかすからな…」
ピンク色のネコ耳と尻尾の小さい久遠。
「櫂様…眠いですぅ…」
地面に丸まる小さい桜の頭はネズミ耳と細い尻尾。
「隠れる処がないなら、走り回ればいいッッ!!」
茶色いウサギ耳と…イヌの尻尾をぱたぱた動かしているのは小さい煌。
それも1匹ずつではない。
ああ…やはり。
不思議な国のアリスの登場人物は…芹霞だけじゃなかったらしい。
「ひゃひゃひゃひゃ!!!」
おかしな笑い声を響かせ、俺の前に立ったのは、黒いシルクハットを被った黒い子供。
黒い耳と尻尾は、黒ヒョウ?
「ひゃ……」
俺がじっと見つめると、決まり悪そうな顔つきで溜息をつきながら、子供は頬を指で掻き始める。
………。
消去法でいけば…俺なのか?
「ひゃ…」
やがて決意めいた硬い顔つきで、またもやおかしな笑いを続けようとしたヒョウもどきを、冷ややかに見つめていると。
「俺だって…恥ずかしいよ…。こんな役…」
何故か目を潤ませた。
その時、朱貴の声でアナウンスが入る。
『紫堂櫂、眠りネズミを禁ず。
眠りネズミ以外50匹攻撃せよ』
ネズミ…。
桜以外を攻撃しろというのか。
アナウンスがしたと同時に、一斉に"不思議の国"の住人は逃げ出す。まるで蜘蛛の子を散らすように。
その俊敏性は…普通ではない。
障害物のない空間において、あれだけの数の姿が目で捉えられないなんて、ありえないことだ。
だけど俺は。
「今までのゲームで"素早さ"に苦労して、切り抜けてきたんだ。もう…速さには負けない。
捉えてやる」
狩猟本能剥き出しに、俺は駆けた。