シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

成分 玲Side

 玲Side
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芹霞の移植された心臓は、安定していたはずだった。


2ヶ月間、僕は病院でつきっきりで、芹霞の状態に目を光らせていて。


移植時は、一瞬の変化が命取りになる。

変異の前兆を見逃してはいけないから。


ずっと僕は芹霞の様子を観察してきて、その上で判断したんだ。

心臓移植の…拒絶反応はもう出てこないと。


――ぎゃはははは!!


陽斗(はると)。


金色の瞳を持つ、殺戮集団…制裁者(アリス)の原形たる男。

死に耐性のある"緋影"の血を引き、不老不死を目指す元老院…今は亡き藤姫の欲望の玩具となり、身体を切り刻まれ続けてきた不遇の男。

人として生きる道を選んだ為、愛する芹霞にその心臓を提供した。


それが――2ヶ月前。


今になって。

それまでまるでその兆候がなかったというのに、芹霞の身体は…陽斗の心臓を拒むような発作を起こしていた。


どうしてだ?


副団長の武器を石に戻した時、芹霞の様子が変わった。


金色。


輝かんばかりの黄鉄鉱(パイライト)を目にして、芹霞は動揺していたのは事実。

そして決定的だったのは、由香ちゃんの言葉。


――陽タンの目の色のようだね。


途端、芹霞はくの字に身体を曲げて、苦しみ始めたんだ。


心臓病の罹患者として、発作時の痛みと呼吸困難の苦しさはよく判る。


取れるだけの応急手当をやり尽くし、回復結界に切り換えても、僕の力は…芹霞の痛みを緩和させることは出来ず。


紫堂と皇城という大きな勢力に抗った身の上なれば、医療施設に赴いて手当をすることで、逆に芹霞の身に危険が及ぶような気がした僕は、救急箱の中身と僕自身の結界の回復力に頼るしかなくて。


だけどそれは効果がないものだった。


焦った上で縋るように思いついた手段。


ジキヨクナール。


過去、その馬鹿げた名前の元市販薬で、僕の発作が奇跡的にも緩和されたと桜から聞いたことを思い出して。

紫茉ちゃんの、発作のような熱の苦痛を和らげるのに朱貴が使用していたものであるならば、紫茉ちゃんと朱貴が居るこのマンションにも、それは常備薬のように当然あるはずで。

予想はあたり、急いで芹霞に飲ませてその効果を期待してみたけれど、苦悶の度合いは薄れることなく、逆に益々強まるばかりだった。
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