シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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品川桜華学園、第二保健室。

まだ記憶に新しく…思い出深い場所だ。

この場所で、僕は櫂の"切り札"となる覚悟を聞いたから。

今…それは"切り札"となり得ているのか、よく判らない。


朱貴が運転する青いワゴンに乗り、行き着いた先の特別室には、保健室だと思えぬ程の豪奢な空間のままで。

僕達の記憶の最後は、壊滅状態であったのに…今は見事なまで復活している。


芹霞は顔色悪いまま、意識を失っているものの、容態は落ち着いてきたようだ。

意識在れば苦しい思いをするのなら、せめて今だけは楽にいて貰いたい。

眠りを誘ったのは、僕と朱貴の回復が…芹霞の状態を幾らかは緩和したからだろうと思いたいけれど。


朱貴は遠隔的な結界だけではなく、懐から取出した符呪や詠唱を用いて、芹霞を乗せたベットの周囲に布陣を敷いた。

それはまるで久遠の術を見ているようで。

だが、久遠のメインは言霊で布陣が補助の形をとっていたのに対して、朱貴は符呪による布陣がメインなのはすぐ見て取れる。

ネコのクオンは座ったまま、瑠璃色の瞳で朱貴を見つめているだけ。


点在した6枚の符呪が炎のような赤い光に包まれ、光の線が走る。


それが大きく六芒星の形を結んだ時、その中心に横たわる芹霞が、僅かに嫌がるような身動ぎを見せた。

思わず反応した僕を朱貴は片手で制し、冷ややかな目を細めると、つかつかと芹霞の横に立ち…芹霞の服を引き千切ったんだ。


「「何をするんだ!!!?」」


同時に声を上げたのは紫茉ちゃん。

クオンは何も動かない。


僕達の声などお構いなしに、朱貴の目線は…芹霞の心臓の位置で止っていた。


――!!!


変色した手術痕。

最後に僕が目にした時より、状態が悪化していて…僕は思わず息を飲んだ。


「紫堂玲。お前は…こんな状態になっていたのを、気づかなかったのか?」


不意に向けられた、詰るような朱貴の言葉は…僕の心を抉り出した。


誰よりも近くに芹霞と共に居て、僕は…芹霞の何を見ていたというのか。


想いを通じ合わせたい。

強くなりたい。


自分のことばかりに夢中で、

芹霞の異変の可能性を排除していたんだ。


「ああ…!!!」


僕は髪を両手で掻き毟った。


紫になったその皮膚から…血が流れていた。

まるで――身体が、心臓を押し出したいかのように。



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