シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
ここまでの状態を、僕は気づくことは出来なかった。
僕自身に対する怒りと後悔と落胆が頭にぐるぐる回る。
「何で…何でこんな…!!!」
僕は頭を抱えて、ベッドの傍らに膝をついた。
青白い芹霞の顔には、いつものような生気は見られない。
どうして僕は芹霞の変調に気づかなかった!!?
「この娘…闇石の名残があるな…」
朱貴が目を細めた。
「だから思った以上に、浄化が及ばない。"澱み"が抜けきれない。何故…闇の波長を許しているんだ、緋影の心臓が…」
何を何処まで、朱貴は知っていると言うのか。
「朱貴は、知っているのかい? 陽タンのこと…」
由香ちゃんの問いに、朱貴は固い顔をして。
「会ったことはないが…知らぬわけでもない」
そう何とも意味ありげな言葉を残して。
「とにかく…闇石が、この娘に何らかの作用を及ぼすものであるというのなら、闇の力で、拒絶する緋影の心臓を押さえることは可能かもしれないな。
闇は…現身(うつしみ)をこの世に引き留める、接着のような役割を果たすから。…闇、か…。またよりによって…」
朱貴は少し考え込んだ。
「此処には闇の使い手がいないとは…」
濃い灰色の瞳が、僕を見て…期待を失った顔にて素通りしていく。
「ニャア」
その時、足元のクオンが鳴いた。
「ニャア」
何かを訴えかけるように、朱貴に向かって鳴くネコ。
「お前は無理だ」
「ニャア、ニャア」
まるで――そんなことはない、頑張るからやらせてくれと言うように。
「それだけは…無理だ」
断言されたクオンは、項垂れるようにして動きを止めた。
素直に…朱貴の言葉なら従うらしい。
闇の使い手。
僕は櫂を思い出す。
櫂ならば芹霞を救えるのか?
だけど…芹霞の隣に居るのは僕だ。
「僕が…やりたい」
「不可能だ」
ネコには理由があって"無理"。
僕には問答無用で"不可能"。
役立たずは僕の方だということは明白で。
「僕が…!!!
僕が芹霞を救いたいんだ!!!」
「希望と現実は違う。はき違えるな」
「僕が居るんだよ、僕が居て!!!
ただ見ているだけなんて、そんなのは嫌だ!!!」
「闇を扱うのは命を危険に晒す。あの緋狭ですら、制御出来るのはほんの一時。俺でもそんな処だろう。
緋狭に至らぬお前が扱えば、一瞬で身体が吹き飛ぶ。
闇は…選ばれた者しか扱えぬ」
僕は選ばれた者ではないと…そう言いのけた辛辣な朱貴の言葉が、あまりにも的を得ている為に、僕は唇を噛みしめて悔しさに耐えるしかなかった。