シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
"心"?
何でそんなことを聞くのか判らない僕は、怪訝な面持ちで答える。
「……。色々学説が別れているのは知っている。難しい質問だけれど…感情で痛むのは胸だから、胸の中にあると答えようかな。広義だけれど」
それはあくまで僕の主観的な感情論。
医学的根拠から言えば、何の確証もなく。
数値的論証に頼る医学で説明出来ない曖昧なものだから、心理学という心の研究分野があるのだと僕は思うから。
「心臓、という意味か?」
「いや、概念的な意味で。心臓は…感情を司る機能はない。あくまで生命維持的機能しか持ち得ないと、僕は思っている」
「脳とは考えないのか?」
「感情を生み出すという点では否定しがたいものはあるけれど、脳死の患者に心がないのかと問われれば、YESとは言えない。臓器が死んでも、感情という心は残ると思うんだ。だけどそれでいけば、胸の部位が必ずしも必要であるわけではなく、加えて…肉体のない幽霊とかの存在理由…、怨恨の類などもまた"心"によるものであり、幽霊にも心があると言わなくてはいけなくなるね。
心は肉体を拠り所とするものではなく、"存在しているモノ"は別格で必ず心がある…そう答えた方が良いのかも知れないな」
僕が苦笑すると、朱貴は薄く笑った。
そこにどんな感情があるのかは判らないけれど。
そして朱貴は、すっと笑みを消して僕を見た。
「ジキヨクナールは…」
そこで言葉を切り、溜息をついて。
「緋影の…肉体の一部が入っている」
翳った濃灰色の瞳を僕達に向けた。
「それには恐らく金自身のものも、その血族のものも含まれている。
金は…彼女の"命"として以外、"利用"されることを嫌っていたのだろう? その意思は、心臓として唯一"存在しているモノ"に受け継がれていると考えれば。同族のものを道具として取り込むことを拒む」
「意味が判らないよ、朱貴」
由香ちゃんが聞いた。
「ジキヨクナールは――…
蠱毒、だ」
朱貴は、そう言ったんだ。