シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「蠱毒…って、あの!!?」


僕と由香ちゃんは顔を見合わせた。


過去何度も蠱毒というものには立ち会ってきた。

本来は毒を持つ虫や爬虫類を1つの甕に入れて行った、古代中国の巫蠱(ふこ)術なのだが、それを人間に応用させたのは――藤姫と白皇。


力の強い者同士を1つに閉じ込めて戦わせ、最後に生き残った者の力を呪いに使おうとした。


それで…終わったはずではないのか?

終わっていなかったのか?


「あの薬の成分は、蠱毒……? 何でそんなものが易々と市販されていたんだ!!? 人体にどんな悪影響が出るか…」

そして僕は言葉を切った。

今は売られていないという事実を思い出して。


それを見越して、朱貴は自嘲気に笑う。


「そうだ。一定期間にきちんと副作用が現われたから、販売中止となった。その被害数はぎりぎり及第点にしろ、成果があったという事実に関しては成功だった」

副作用…。

それは、死に至る重篤兆候を示すことがある…確かそんなことで。


死なせたかったのか?

不特定多数を?


朱貴は薄い笑みを浮かべて言った。


「目的は"死"ではない。"あるべき処に還した"だけだ。……と、皇城ならばそう言うだろう」


開発元は…皇城だと?


"あるべき処"?


それは"死"を肯定する理由があるということか?

選別しているならまだしも、不特定多数に対して?

そしてそれは、紫茉ちゃんと僕には耐性があるのだけではなく、逆に僕達の回復力を促進する効果があると?


益々、わけが判らない。


「なあ…朱貴」

それまで黙していた紫茉ちゃんが、困惑したような顔で訊く。


「あたしのうっすら記憶に残る"あの家"には、離れがあって…、いつもガタガタ音がしていて。そこで父さんがあたしの薬を作っているのだと…母さんから訊いたことがある。

あたしが今まで熱の度に飲み続けているのが、この"ジキヨクナール"だというのなら、あたしの家でこの薬は作られていたということか?」


途端、曇る朱貴の顔。

しかしそれは直ぐ様、固い意思故に冷ややかに払拭されて。


「あたしは蠱毒というものはよく判らないけれど、"死"だの何だの不吉な単語が出てくるのなら。少なくともあたしや父さんは、そんな不吉なモノと関係があるのか?」


朱貴はゆっくりと息を吐き出して、紫茉ちゃんを見た。


「紫茉。お前が知るのはまだ早い」


そして辛そうに目を細めて、呟く。


「まだ…時間はある…。今知ることは…ない…」


そして頭を一振りすると、僕達に背を向けた。
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