シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「俺はこの件には、これ以上何も言いたくない。だけど…どうしても知りたいというのなら。九段下の、自警団の矯正施設に行ってみればいい」
「自警団? 何で自警団が出て来るんだ…?」
紫茉ちゃんの疑問はもっともで。
しかし朱貴からは返る言葉はなく。
ただ僕達に向けるその背が、酷く辛そうに思えた。
僕達が必要としている情報は、朱貴にとっては辛いものなのかもしれない。その理由までは判らないが、朱貴は…知られることを恐れている。
僕達が行き着いていない…
その"何か"を知られることに。
そう思った。
だから朱貴は多くを語らないのだろう。
多分今、話しているのは…皆が紫茉ちゃんを救出したから。
その礼なのだろうと思う。
あくまで朱貴にとっては、ギブアンドテイクに過ぎぬ情報。
だけど状況打開したい僕には、欲しくて堪らない情報。
かつてネットを駆使して簡単に情報を集めていた僕は、ローカル的な"人伝"でしか情報を集めることは出来ず、なんて皮肉なことなんだろうと嗤いたくもなるけれど。
僕達は彼に救われてはいるけれど、決して心を許されているわけではない。
それに、人には語りたくない過去はあるし、僕も本来ならば立ち入りたくはないけれど。
僕達の窮地に朱貴が現われるのであれば。
朱貴の抱えているモノと僕達が直面しているモノは、繋がりがあると思うんだ。
だからどうしても、朱貴から情報を取り入れ、対策を練りたいんだ。
僅かなヒントだけでもいいから。
――俺はこの件には、これ以上何も言いたくない。
ならば、紫茉ちゃんが関わっているらしい薬の件以外のことを。
もっと単純で基本的なこと。
そう例えば――
「朱貴、お前何で…紅皇サンの格好してるんだ?」
本来なら真っ先に尋ねるべきことを。
しかし朱貴は口を噤(つぐ)んだままで。
「朱貴、どうした?」
「…紫茉。怪我はないか?」
「は? ああ…なんだいきなり。そんなことより…」
「ならばいい」
「え?」
「お前が無事であるならば、それでいい」
そして朱貴は、返答そのものを拒絶したんだ。
依然翳りある…切ない顔を向けて。
そうしたら僕でも判る。
紫茉ちゃんを助ける為に、朱貴はその姿になったのだって。
1人の…愛する少女の為に、五皇になった朱貴。
氷皇認可の元、紅皇になりえた朱貴。
緋狭さんと知り合いというならば。
金翅鳥(ガルーダ)をある程度制御出来る仲であるというならば。
例え裏に氷皇が動いていたとしても、決断には重い理由があるはずで。かなりの覚悟があるはずで。
そこまでの決断をさせるほど、朱貴は追い詰められていたということ。そこまで…紫茉ちゃんを救いたかったということ。
そこまで僕に――
抱かせたくなかったのか。