シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「あのニャンコ…すごっ…」
由香ちゃんは感嘆の声を漏らす。
「寝たふりしながら…ボクと神崎がしてたこと…理解して……それに百合絵さんもやり方知ってるのか?」
ぼそっと由香ちゃんが呟いた。
「ふうん? ちゃんと進めているわけか~。別に、さぼっているわけじゃないんだ?」
やはり。
意に反した出来事に、面白くなさそうだ。
「そ、そうさ氷皇。何が何でも氷皇の指示はボク達優先して…」
何処の商人の揉み手だよ、由香ちゃん。
「そうだよね。"電波届かない処にいました~"とか言い訳したら、動画即発信する処だったよ、待機してる二宮さんに連絡して。よかったね、素直にやってて」
由香ちゃんの目は、安堵で潤んでいる。
多分、その言い訳すら出てこない程、パニクっていたんだろう。
「じゃやっててよ。続き…。後で見せて貰うからね?」
「はい」
「ニャア」
氷皇は…その場を後にした。
由香ちゃんは、紫茉ちゃんの腕を掴んで。
「な、七瀬…監督してよ。合ってるかどうかさ…」
「いいが…。ん…。………。あれ、全然違うな」
「やっぱそうだよな?」
「所詮、素人と猫ですから。今、私達のiPhoneで適当なホームページ見ながら、適当に書きました。全て適当、このネコと一緒です。ぷふ~」
「ニャア」
当然というように、百合絵さんとクオンが答える。
はったりだったらしい。
「でも助かったよ…。フリだけでもよく用意してくれてたね…」
由香ちゃんが笑顔を見せながら、大切な銀の袋から、iPhoneを僕に返し自らもポケットに突っ込んで。
「ネコに…叩き起こされました」
「ニャア」
あのネコ、只者ではない。
この満足そうな顔。
そして何で僕に挑発的な笑いを見せて、わざとらしく芹霞の唇をペロペロするんだよ。
まだ根に持っているのかよ。
換気口から、あんな格好で落ちた癖に。
ペロペロ…。
いらっ。
「師匠、戻るよ。師匠…ニャンコだから、相手」
「うう……」
「ほら、師匠…?」
唸る僕は由香ちゃんに腕をとられてずるずると氷皇の居る場に戻される。
既にソファにて足を組んでいた氷皇は、ばさりと…何かを机に放った。
「玲、ここに行け」
口調が変わった途端――
空気が…凍えた。
これが…嫌なんだ。
前触れなく切り替わる――
この氷皇の酷薄モード。
絶対的な権威を振りかざす。
僕はその薄い雑誌のようなものを手にした。
「学習塾?」
それは…塾の入会案内のパンフレットだった。