シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


チビ達は、消えて減ったと思うとまた増殖する。

何だこいつら…。


『189』

『210』


不思議と櫂と擦れ違わねえのは何でだろう?

まあこの空間の横幅はかなりあるし、もうあいつは走り抜けたんだろうな。

こっちに夢中になりすぎて、櫂の方のアナウンスも聞こえていなかった。


櫂は俺達に気づいたのかな。

櫂は簡単に突破したのかな。


………。

俺だって負けてられねえし、絶対10秒で出てやる!!


『8秒経過しました』


思ったより時間は経っていねえらしい。

これならいける!!


「行くぜ、走る速度あげるぞ!!! 飛ばされないようにしがみついて、ちゃんとターゲット狙えよ!!!」

「判った!!!」


中々に素直でいいお返事。

俺がどんな体勢になろうとも、リスは落下してこない。

たまに禿げるかと思うくらい髪を引っ張られることはあるけれど、泣き言言わずに鉄の胡桃を打ち出す…意外に根性ある焦げ茶リス。

対して、ぎゃーぎゃー酷く騒ぎながら逃げていくチビ共。

規則性もなくランダムに散り、ジクザグに突き進んではありえねえ角度にぎゅんと曲ったり立ち止まったり、飛び跳ねたり、四つん這いで這ったり。

不規則で素早く動き、1秒もじっとしていねえ。

とにかくまあ…あらゆる動きで、俺達を振り切ろうとするけれど。

悪ぃな、速さ慣れしてきたんだよ、俺は。

だから瞬時に見つけることが出来る。芹霞を避けた移動可能な道程を。


どの角度で突っ込めば、より多く攻撃出来るのか。


目で見たら直ぐ俺の身体に伝達される。

考えるまでもなく俺の身体が瞬時に動く。


偃月刀と鉄の胡桃が、ばたばたとチビ共を消していく。


中にチビの俺も混じっているのは複雑だけれど、いつもワンコだなんだとやり込められている俺にとっては爽快な気分でもある。

「おーら、退け退け退け!!!」

偃月刀を回しながら、そう叫んで走り抜ければ…チビ達にまざる、青いドレスと白いエプロン姿のチビ芹霞を見つける。

何すました顔して、お嬢ぶってるよ?

恋心というよりは、昔の懐かしさに囚われて。


だけど…心を猛烈に動かされたのは――…


「芹霞だ!!! 僕の芹霞だ!!! 芹霞、芹霞!! 僕は此処だよ!!」


ぴょこん、ぴょこん。


欲の権化たる、チビの方。


はぁ……。

俺は偃月刀を小ぶりのものに変え、柄の部分でリスを小突く。


「煩悩滅殺!!!」

「ううっ……」


チビリスの唸り声が聞こえた。

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