シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「うがーっ、何だよそれ…。交代!!? 倍数!!? 嫌~~ッッ!!!」
白目を剥き始めた翠はその場に崩れ落ち、今にも口から泡を吹きそうだ。
俺は条件を反芻しながら、翠を立たせた。
「仕方が無い。お前は九九は大丈夫か?」
「まるで全然、さっぱり自信ないよ!!」
………。
中3…だったよな、確か。
『これも翠くんの勉強です。
頑張って下さいね。START!!』
翠を溺愛している朱貴とは思えぬ程の強引さで、新ルールにてゲームは再開された。
ぐだぐだ言っている暇はない。
「翠、交互に声に出すぞ。俺が倍数にあたれば言うから、その時は即座に攻撃対象を変えろ」
「判った!!!」
「では俺から行く。1」
戦闘態勢に入れば、小さな俺の知り合い達は、悲鳴を上げて一同走り去ろうとする。
中には小さい芹霞も居て、芹霞だけは攻撃するまいと心に誓う。
俺を模倣したらしい忌々しい帽子屋を捕まえ、背中に拳を入れる。
『1』
目の前で消えゆく、俺もどき。
「次、俺!! 2」
翠はシロウサギを捕まえ、足払いをした。
『2』
玲もどきは慌てたような声を出して消え、次に俺は蹲る桜の尻を蹴り飛ばす。
『3』
「次、翠倍数!! 煌もどき!!!」
「え…あ…」
玲もどきを捕まえようとしていた翠が、慌てて攻撃対象を変えた。
耳を生やした小さい煌は、翠に背中を踏み付けられて消えて行く。
『4』
俺は、舌打ちする。
「このままでは駄目だ。リズムが取れない」
もどかしい。
時間がないのに連続で畳みかけられないのが、もどかしすぎて。
頭ではカウントと倍数を数え、そしてそれぞれの攻撃対象を考えて。
それが身体が反応するまで、更に時間がかかりすぎて。
条件が複雑過ぎる。
朱貴もどきが仕切るこのゲームに、どれ程度まで難易度があるのかは知らないが、流石は高難易度だけはある。
人に言われてするのと、自ら動くのとは、身体の動きがまるで違ってくる。更に俺は、頭で考えている分…いつも以上に動きが悪い。
負の悪循環。
これでは当然、声だけのニノにも頼れない。
今度は俺も翠の二の舞だ。
攻略するにはどうしたらいい?
どうしたらすんなりと流れていける?
倍数計算出来ない翠でも、自然に身体が動ける方法はないのか?
………。
ふと思いついた。
「4の倍数と…8の倍数?」
つまりそれは…