シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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♪黒やぎさんから お手紙ついた~


女性の美声が、"山羊の郵便"を奏でる。

音楽のピッチを早めても、その女声が倍速特有の機械音じみた高音にならないのは、ニノの調整によるものかもしれない。

それ故に、リズム慣れした体を更に早さに対応させる為に、音楽自体早めて貰っても、特別違和感がない。


翠も必死に頑張っている。

ぐだぐだ言って逃げずに、前を向いていること自体…このゲームを1人任せていた甲斐はあったと思う。

GAMECLEARも必要だけれど、それを維持するための根気が鍛えられていたようだ。

諦めず、挫けず、投げ出さず。


翠なりの貪欲さが表立ってきた。

ならば貪欲の塊たる俺は――


「翠、上体がぶれてる。速度が出ないぞ」

「判った!!」


更なる高みを目指して貰いたくて、ついつい…口を出してしまう。


そういえば、8年前にも緋狭さんに言われたっけ。


――速さに囚われすぎれば、攻撃の型が崩れる。


今も尚…緋狭さんの教えは息づいている。

緋狭さんから俺へ、俺から翠へと。

成長期の翠を見て、俺自身も体術の荒さを省みて。


緋狭さんの教えは、循環する。


緋狭さんは誰から、教授されたのだろう。

自己流とは思えぬ程、その動きは完璧で流麗だ。


玲と煌、そして今は桜もだが…いい所を併せて更に壮絶にさせたのが緋狭さんの型。

それは氷皇とも違う型。

性別とか身体的特徴を全く無視して、己の力を高められる型。

誰もが憧れる型。


学ぶべきものが多すぎる。

俺は限界を感じるには至っていない。

もっと、もっと。

上に行きたい。


目の前の俺達もどきが消えていく。

目で捉えると同時に、体が動き…そして消えるまでの時間は僅かになった。


「翠、大丈夫か?」

「必死だけれどまだまだ大丈夫!! 俺…集中力と体力ついたらしい」

「そうか。だったら…限界突破だな」

「おお、いい言葉!!」

「突破して、上を目指そう」

「そうだな!! 合言葉は限界突破!!!」


電話越し…俺の言った通りに、煌とレイは"煩悩滅殺"を叫んでいた気がする。

あっちは煩悩、こっちは限界。

それぞれ合言葉があるとはな。

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