シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

いかにリズムを早くしても、8拍子ごとに調子を乱しにくるのは…久遠の謎々。

頭ではなく体を動かしていた俺は、そこで頭だけをフルに動かしていかねばならない。

身体だけでは解決できない問題だ。

依然流れ続ける童謡の進み具合で、ある程度考えている時間がどれ程かが把握出来るけれど、8拍毎のタイミングで答えたい処。

そこから続けて曲に乗って攻撃出来れば文句はない。

全ては流れに沿って動くのが理想の形。


「問題~。

男同士、上半身裸で互いの身体を抱き合い、時に優しく、時に激しく…その肌を直接触れ合って、我慢出来ずに出てしまったらすぐ終わってしまうモノは何だ?」


「相撲!!」



「問題~。

男が、惚れた女と一緒に居たら、すぐにたってしまうモノは何だ?」


「時間!!」



「問題~。

深夜1人こっそり見る、他人には見せられないモノは何だ?」


「夢!!」



「問題~。

入れる前は硬いのに、終わって取出せば柔らかくなっているモノは何だ?」


「ガム!!」



忌々しい。


「放送禁止用語しか…思い浮かべられねえ…」


真っ赤な顔で溶けている翠。

そんな俺を期待していたのだろうが、そうはいかせるものか。


俺は動じない。

そう思うのは――多分、本物の久遠なら、そんな下世話なことを口にしないことは判っているから。

あったとしても喧嘩腰で言い捨てるだけ。

経験者ぶって大人ぶってさらりと言いのけるその余裕さに、だからこそ俺は無性に腹立つのだけれど。


だけどこれだけは判るんだ。

どんなにだらだらで、どんなに女を惑わせるフェロモンを放ち、どんなに数多くの女を乱した体を持っていても。

あいつの心は、欲に堕落していない。


いっそとことん汚らわしいまでに落ち込んでいてくれるのなら、冷たくあしらうことも出来ようけれど、変な処は潔癖な部分がある久遠。


それは…芹霞への態度を見ていればよく判る。


恋い焦がれている癖に、芹霞からのボディタッチを拒む。

だけど突き放すことも出来なくて、一線引いたまま芹霞に接する。


必要がなければ芹霞に触れない。

しかし言葉だけは…執拗に芹霞の名前を呼んで、罵りながら…求めている。


矛盾した精神だけは、変わらず禁欲的(ストイック)で大人じみているのに、だけどやることはどこか子供じみていて。


その矛盾さもまた久遠を構成する一部。

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