シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
だからこそ、久遠の名を戴くものが俺に突き付ける問題は、俺をからかうためだけのものであることは、俺が一番よく知っている。
だから今、逆上する必要も無いし、動揺する必要も無い。
それに…此の手の揶揄は、緋狭さんに鍛えられている。
不本意ながらも。
回答するのが俺以外だったら…多分、収拾が付かなくなっていただろうことは、想像に容易い。
煌でもレイでも翠でも。
言葉の意図を考えぬ限りは、自らの妄想に囚われる。
そう、これも夢のようなものなんだ。
言葉の力は大きい。
だからこそ、言霊使いの久遠がシニカルなチェシャ猫なんだろう。
俺達の動きが自然とリズムに統一され、謎々も曲の一部として組み込まれていくような錯覚を覚えれば、互いに声を出し合わなくても自然とゲームは進む。
消え行く久遠。
消え行く小さい俺達。
そして――。
『65 CLEAR』
懼れることは何もない。
「ニノ、経過時間は!!?」
翠とテトリス台に走りながら、聞いた。
『お答えします、櫂様。9秒です』
「えええ!!? 俺…5分はかかっているかと思った!! 9秒!!?」
確かに…1秒で4回攻撃できる速さから、後半は更に音楽の速さを進めたけれど。
チェシャ猫との謎々で、明らかに時間をとっていたはずで。
どう考えても"ありえない"。
やはり時間は狂っている。
どちらが狂っている?
ニノか?
俺達か?
大丈夫なのか、このまま進んで…。
猜疑心は誰に向けられたものか。
狂ったモノがニノであれ俺達であれ…
信用して良いものか?
本当の今の時間は、どれ程なんだ?
ちゃんと此処を切り抜けられるのか?
残り10分から導いて組み立てた、解決策。
時間があってこその俺の策。
順調に段を消していると見えて…実は意味がないものなのか?
ぐらりと、信念が揺れた。