シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
太刀打ち出来ない程の、圧倒的な実力の差を見せつけられた僕は、本能的恐怖故に全身が総毛立ち、情けなくとも…軽い呼吸困難に陥り、その苦しさに浅い息を繰り返してしまう。
それを意思でぐっと堪えて、素早く息を整えると――
「今の…僕には…確かに、力はない。
だけど僕は強くなって…」
僕は意思を貫く為に、真っ直ぐに藍色の瞳を見つめた。
紫堂本家でのように、僕の決意を軽んじられたくなかった。
「僕は…逃げたくないんだ。負けたく「何からだ? 具体的に言え」
僕の言葉が終わらぬ内に、氷皇は遮るように淡々と言った。
「全てのものから。僕は自分の強さを…自分の可能性を信じたい」
「あははははははは!!!」
氷皇は笑った。
完全に僕を軽んじて、馬鹿にした笑いだった。
屈辱に僕の身体が怒りに燃え上がる。
「笑うなよ!!」
僕の決意を…笑うんじゃない!!
氷皇は口元を吊り上げて、更に馬鹿にしたように笑った。
「まるで、反抗期のガキの台詞だな」
「何だって!!?」
「本当の強さも知らずして、自分基準で強さを決めて…それ以外を排除する。それはただのお前の駄々じゃないか。
"選ばれた"ことに酔い痴れて、そこから派生した感情を正当化して…お前は世界でも救う気か。厨二病にでもかかったか」
「!!!」
「お前にとって強さとは何だ」
氷皇は腕組みをしたまま、鋭利な刃のような藍色の瞳を寄越した。
「口ではなんとでもいえる。"強くなる"、"強くなる"、"強くなる"。呪文のように唱えているだけで、お前は実際強くなれているのか? 本当に強くなりたいと思っているのか?」
僕は――
「切実さが見えないんだよ、お前には。そう唱えることで、自分の弱さから逃げているだけにしか見えん。ひたすら逃げて逃げて逃げて。今までの逃げて諦め続けたお前と、何が違うと言うんだ?」
言葉が出なかった。
「言い訳としてまず思い浮かんだのはこんなトコだろう。
"時間がなかったから。それ処じゃなかったから。今は無理だけどいずれ…"
はっ!!! 逃げ口上だ。"約束の地(カナン)"から帰ってどれ程の時間が経っている? 半日以上もお前は…何をしてた? 何が変わった? 何をどう変えようとしてる? さあ…言ってみろ」
「僕は……」
震える唇から…言葉は出てこなくて。
強くなりたいのは本当なんだ。
僕だって、守りたいんだよ。
芹霞も櫂も…大切な者全てを。
だけど…だけど…。
――"時間がなかったから。それ処じゃなかったから。今は無理だけどいずれ…"
否定…出来ない。
確かに…僕には、甘えがある。