シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「いいか、玲。お前が強ければ、紫堂当主の部屋に朱貴が乗り込むこともなかった。猫と女2人と警護団長に助け出される無様な姿は、見せずに済んだんだ。
その頬は…お前の弱さの証拠だ。強くなれないからと"死"に逃げて美談にしようとした、お前の戒めだ」
僕は…熱い頬に手を添えた。
「お前は強くなるために具体的に動こうとすらしないで、実際強くなる為に動き始めた櫂を妬んで羨ましがるだけ。皆の憐れみを引いて陶酔しているだけ。
それで強くなれるなんて…思い上がるな」
痛いよ。
氷皇の言葉を受入れている身体の全てが。
違うと否定出来ない僕の心が。
「1つ教えてやる。
お前は――
"時間"を蔑ろにし過ぎている。
時間は刻一刻と…動いている。
時間は…待ってはくれない。
限られた夢の時間に踊らされるか、
限られた時間を現実のものと利用するか。
それが――
お前と櫂との決定的な違いだ」
氷皇は笑った。
「強さには…場所は関係ない。何処の場所でも強くはなれる。例え地獄の底でもな。――なあ、朱貴?」
くつくつ、くつくつ…。
意味ありげな笑いを受けた朱貴は、無言だった。
暗い暗い翳り。
陰鬱な表情で。
「櫂達は…5日もかけずして戻ってくるだろう。今のままでは、歴然とした差が開くことは明らかだ。
再会した時、櫂達に恥じぬ姿を見せろ、玲。前とは違う強さが何処か、胸を張って言えるだけのものを養え」
僕は思ったんだ。
「俺が任命した新紅皇により、"監視"という名目で、お前は紫堂から逃げられている現実を認識しろ。それだけの力を朱貴が持っていることを理解しろ」
気まぐれかも知れない。
魂胆があるのかもしれない。
だけど――
僕には、痛いくらいの辛辣な言葉で…喝を入れてくれたように思えたんだ。
恋に舞い上がっていた僕。
具体性もなく概念的な強さばかりを主張していた僕は…確かにこのままなら、時間が経つばかりで何も変われない。
口ばかりで終えてしまうだろう。
僕が実行したのは…当主のいう"儀式"を突っぱねたことだけ。
だけどそれすら…皆から助けられて、今此処に生きて居られている。
後は頭でぐだぐだ考えているばかりで、策らしい策も中途半端で。
芹霞に格好ばかりつけ、芹霞が倒れていても回復すら出来ず狼狽するばかりで、解決策のヒントは朱貴に与えられて。
ただ状況に、時間に流されているだけの僕。
桜すらも取り逃がして、これで僕は…芹霞を、皆を、守れるというのか?
どう守ろうとするつもりだ?