シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
そして氷皇は、懐から出した小瓶を僕に投げた。
「これは…?」
「桜を治療したものと同じ成分が入っている錠剤だ」
「氷皇…それは…」
朱貴が声をかけて、それを氷皇が手で制す。
「持続性は高いが根幹治療ではない。だが痛みや苦しさは無くなる。一種のドーパミン効果だ。桜が…そうだったろう」
桜…。
「これが切れた時幻覚や幻聴に苛まされる。途中も多少揺らぎはあるかもしれぬ。これを誰にどう使うかはお前に任せる。
まだ効果が持続する筈の期間、その揺らぎと油断故に…つけ込まれたんだろう、桜は。…元部下によって」
氷皇は身を乗り出して僕を見る。
「お前も判って居るだろうが、紫堂は今分裂している。紅皇たる朱貴が、お前の肩書きを守ったが…それは砂上の楼閣と心得よ。
紫堂皇城共に…それでお前を諦めはしない」
僕は頷いた。
そうか。
僕の肩書きは、五皇によって保証されているのか。
少なくとも…今は。
氷皇は椅子に深く座り直し、手と足を組んだ。
「赤き薔薇の花は、一定の場所にしか咲かぬ。
それは…お前には咲くことはない。
だが芹霞や櫂、桜には咲く。
その意味を考えよ」
それは難解な謎々のように。
「え…?」
「この薬は…赤き薔薇のみ有効だ。お前や紫茉は…効かない」
どういう…意味だ?
「因果は巡り、運命は錯綜する。
真なる世界の、現実の姿を見よ」
藍色の瞳は細められた。
「黄色が放つ蟲(ワーム)に…気をつけろ」
「蟲? 黄色い外套男が放つ、蝶のことか?」
しかし氷皇は含んで笑うだけで。
「蟲を排除出来るのは、黒と赤だ」
何処までも、核心をひた隠しにするだけ。
「それは…黒皇と紅皇ということか?」
僕の質問に答えずして、氷皇はゆっくり立上がった。
それは、もう話す気はないという…退去の姿勢だった。
「氷皇、僕はまだ聞きたいことが…!!!」
「今はすべきことがあるだろう?」
「え?」
「俺に物を尋ねたいのなら、対価を…変化を見せろ」
強さを見せろと…言うのか。