シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
その時カーテンが開く音がして、紫茉ちゃんがこちらに走ってきた。
「占星術(ホロスコープ)完成!!」
多分、彼女が全てやったのだろう。
判っているだろうに、氷皇から咎める言葉は出てこない。
「見せろ」
奪い取るようにして、占星術(ホロスコープ)が描かれた複数の紙を眺める氷皇。
彼は確かに、"作らせよう"としたのだろうけれど、誰にということまでは不問だったのか。
ただ"見る"だけの動作でも、氷皇がすれば威圧的で、何を言われるのか…やましい要素がなくてもびくつく心が隠しきれない僕。
やがて氷皇は、薄い笑いを顔に浮かべると――
「正解」
そしてその紙を宙に飛ばした。
「え? それだけかい?」
呆気に取られたように由香ちゃんが驚いた声を漏らしたけれど、
「意味があるかないかは…お前達が判断しろ」
氷皇は、多くを語らない。
目の前には、用済みとでも言うように――
ひらひらと紙が舞い、乾いた音をたてて床に積み重なった。
占星術(ホロスコープ)を作る重要性は何だったのか。
ただ手作りは面倒な作業らしいということくらいの感想しか、今の僕には判らないけれど。
「朱貴。今日一杯だ」
視線だけを朱貴に向ける氷皇。
「最大にしてやる」
主語をぼかして。
朱貴は煉瓦色の髪を掻上げて、了承したというように片手を上げた。
「時間がない。僅かにでも"戦力"にする為の、荒療治だ」
「ああ…判っている」
薄く笑って、氷皇は歩き出した。
「玲。俺が命じたことは言い訳にするな。
今もこの先も。
どんなことがあっても、やり抜け」
振り返りもせず、そのままの…背中越しから聞こえる氷皇の声。
「やり抜ければ…また姿を現そう。
その時、気が向いたら…だがな」
偶然ではなく、必然で動く氷皇。
やはり今現われたのは――
僕に喝を入れるのが目的だったのだと…僕は感じた。
緋狭さんならいざ知らず、らしくもない氷皇の行動。
それが必然というのなら――…。
「判った」
今は、それをありがたく受け取ることにしたい。
一生に一度くらい、そう思ってみてもいいだろう?
ああ、明日は嵐かもしれないけれど。
少しでも好意的に――…
「時間を見くびったお前の罰則(ペナルティー)は、時間で払って貰う。決して力で機械に"不正"をするな」
…なんて、全然思えない氷皇だけれど。
5時から15分で…1割増なんて、本当に鬼畜過ぎて涙が出て来るけれど。
「……判った」
それでも今は、教訓として。
現在…4時20分。
よし、走るぞ。