シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「どうして俺に言う?」
「貴方が強い紅皇だから」
朱貴を紅皇職に任命した氷皇は、朱貴によって紫堂と皇城の手を一時休ませ、僕に時間を与えてくれた。
そしてその時間に朱貴が傍に居るその意味を、僕は見逃してはいけない。
時間を、現実の強さとして有効活用する為には、
「僕は…紅皇の弟子。紅皇の弟子は…紅皇に鍛えられたい」
少しでも、今僕が持ちえる数少ない手札を使わねばならないんだ。
そしてこの方法が、僕にとってはベストだと信じる。
最悪な中での最良の状況に変え、僕に自覚を促す為にわざわざ手間をかけたのは…氷皇。
非情な五皇の…元老院は、頬を負傷しているという逃げ道を塞いで、僕にチャンスを授けた。
僕は今まで、なんでもそつなくこなしてきすぎた。
矜持を捨ててでも、我武者羅になって"努力する"という観念が、育っていなかった。
何かを達成するために無我夢中になることはなかったんだ。
……芹霞への愛以外は。
恋愛にうつつを抜かして、より腑抜けになったとは言わせない。
僕を支える愛を貶(けな)されたくない。
だったら――
――俺に物を尋ねたいのなら、対価を…変化を見せろ。
やってやるよ、僕は。
馬鹿にされたまま終わらせない。
目に見える変化を見せてやる。
『白き稲妻』と呼ばれた…過去の栄光を捨ててでも。
今の僕が"困難"に耐えうる強度がないというのなら、今ある僕を一度壊して、緋狭さんが作ってくれた土台に、肉付けをし直す必要があるんだ。
強さに向かい、0から開始(スタート)する為に。
それが僕の"具体性"。
最短で強さを得る方法。
0から強さを吸収する。
限りある時間の中で、最大限に身体を作り変える。
昔の櫂のように、我武者羅になって。
僕だって櫂と同じ血が流れている。
櫂が変化出来て、僕に出来ないはずがない。
煌だって、緋狭さんを怖がりながらも、信じられない荒行をきちんとこなして、強さを手にしているじゃないか。
他者の力を拒んで生きてきた…プライド高い桜だって、自ら緋狭さんに志願し、より強くなるために稽古をつけてもらっているじゃないか。
才能だけが強さではない。
そこに努力が伴って、初めて自信となり…強さとなる。
年上だとか上司だとかそんなのは関係ない。
1人の男として、僕だってやってやる。
「…俺の素性を知らずに、信用するというのか」
「はい」
朱貴の問いに、僕ははっきりと肯定した。