シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



朱貴は大きな溜息をついて、本当に面倒臭そうな顔をした。


「何が嬉しくて…紫茉を鍛えないといけないんだ…」


そう…聞こえてきた気がする。


「紫茉は駄目だ」


はっきりとそう言い切る朱貴は、頑(かたく)なで。


「朱貴、頼む」


しかし紫茉ちゃんも朱貴に負けずに頑なで。

元来、似たもの同士なのだろう。


「駄目だと言ったら駄目だ」

「そこを何とか…」


ブチン。

何かが切れた…不穏な音がした。


「俺が駄目だと言ったら駄目だ!!! お前は大人しく俺だけに守られていればいいんだ!!!」

「守られているのが嫌だからあたしは…」

「どうして俺の言うことが聞けない!!? たまには素直に俺の言葉を聞け!!! 俺が何の為に――…玲。お前何を笑っている」


気づけば僕の口元が弛んでいて。

突如怒りの矛先を向けられた僕は、口に手を当てながら頭を横に振った。


何て不器用な愛情表現しか出来ないのだろうと、可笑しく思ったなど…絶対言えない。


――不器用なのは、朱貴ちゃんも一緒か~。あはははは~。


氷皇に同列に並べられた僕だけれど、僕…此処まで不器用なんだろうか。


いや、此処までではないと思いたい。


「朱貴、あたしだってお前を守りたいんだぞ!!」

「必要ない。お前は俺だけに守られていればいいんだ!!」


芹霞も…"一緒に戦いたい"とか言っていたけれど、実際はどうであれ、僕は共に走ろうとしてくれた芹霞の気持ちが嬉しかった。

朱貴は、違うんだろうか。

一緒に走るよりも、あくまで自分の庇護下に入れて、一方的に慈しみたいんだろうか。


「頼むから守らせてくれよ!!」

「だから必要ない!! ぐだぐだ言わずに俺だけに守られていろ!!!」


"俺だけに守られて"

さっきから地味に…限定的な言い回しで自己主張している朱貴は、こんなに判り易く独占欲を丸出しにしてるんだけれど、そこは紫茉ちゃん完全スルーなんだね。


"俺が紫茉を守りたい"

朱貴がはっきりとそう言えば、いくら鈍感な紫茉ちゃんでも、今までとはまた違う何かが生まれると思うんだけれど。



………。


「………ぷっ」


ああ駄目だ、不毛な会話に笑いが止まらない…。


その時聞こえた舌打ちの音。


「玲、忘れてないだろうな。

"時は金なり"」


「!!!!!!」


僕から瞬時に笑みが消える。


「何の為に、6時にしてやったと思ってる」


「あ、ありがとうございます!!! 

ATMは桜華の談話室の横にあったね。行ってきます!!!」


僕は…走った。



「だけどあそこは…まあいい。

"光陰矢のごとし"…

せいぜい走り込んで、準備運動にしとけ?」


そんな朱貴の声は、僕に届かなかった。
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