シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「何を暢気に…。あんな状態の緋狭に、無意識とはいえ…力を使わせれば、それだけ早く緋狭の体は…」
「アカは覚悟してる。肉体のエネルギー消費を少しでも食い止める為に、無意識領域界に潜ったままのはずだ。
アカの肉体を保持出来るのは、白皇の叡智を受け継いだ久遠の言霊だけ。そして根本的な解決方法は"裏世界"にある。
だからこそ久遠の居る"約束の地(カナン)"。そして"裏世界"。俺もむざむざアカを死なせる為に、危険な場所に放したわけではない」
彼は戸惑う。
藍色の瞳が…僅かに揺れているのを見て取ったから。
「もしあいつが"裏世界"にて、アカの期待通りの働きをしても、アカを救う術を手に入れずに戻って来たならば。
俺は――…
迷いなくあいつを殺す」
不安、なのか?
この男も、そんなものを感じるのか?
今更!!!
「例え欲しい術全て手にいれても、"裏世界"から『気高き獅子』が生還出来るという保証はない」
しかし青い男は、即座に否定する。
「出来る。あいつなら数日で。アカが見込んだ男だ。それくらいはする」
「だとすれば尚更…"裏世界"に染めさせない方が…」
「甘いな」
青い男は言う。
「崖から突き落とされた子供が生還出来ねば、"獅子"にはなれぬ。だからアカも、"縛された"あの状態で突き落としているだろう?
何も生涯、あの世界に染まらせるつもりはないさ。長く染まればどう変わるのか、興味はあるが…アカとの約束だから仕方あるまい。荒療治程度さ。
ところで…アカから聞いているな?」
がらりと空気が変わった。
藍色の瞳が、研ぎ澄まされた刃のような剣呑な輝きを放つ。
「それは――
"あいつ"は知っているのか?」
彼が抑揚ない口調でそう返すと、青い男は口元をにやりと吊り上げた。
「決定権は"あいつ"ではない。
――俺にある」
"それ"が返答だと判った彼は舌打ちをした。