シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「行かないで…」
**は言った。
「芹霞ちゃん、僕を置いて行かないで…」
そのか細い声は紛れもなく**で。
あたしを見上げたその顔は、儚げに消えてしまいそうな、あたしの**で。
だからあたしは、目に映るのは**だと安心して。
「**? あたしは**が大す「見えてきたよ、芹霞ちゃん。魔法を見せて上げるから、こっちに早く!!」
イチルちゃんが怖い顔をしてあたしの腕を引いて、あたしと**と引き離した。
あたしは、そんなイチルちゃんの手を振り払い、泣いている**を抱きしめて言ったんだ。
「**と一緒に、魔法…見せてね、イチルちゃん」
あたしは**を置き去りにはしない。
あたしは**を泣かせたくない。
イチルちゃんは、指を食い込ませるように人形を握りしめ、無理矢理に笑顔を作ったようだった。
「いいよ、2人共こっちに来て?」
何だかその顔が気味悪いお化けのように思えたけれど、あたしが怖がっては**がもっと怖がってしまうから。
だからあたし、頑張ってにっこりと笑ったんだ。
「此処に入ってね…?」
お墓を横切り、そして案内されたのは、その奥にある…今にも壊れてしまいそうな小屋のような場所だった。
入口は、長細い木の板がバッテンになって釘でとめられている。
イチルちゃんはそこからではなく、その横にある…枝がうじゃうじゃ生えている大きな木の後ろに回って、山に積まれていた木の葉を両手でどけた。
葉っぱが無くなった場所…太い木の幹には、なんと、大きな穴がぽっかりとあいていたんだ。
何か、凄くドキドキしてワクワクしてくる。
冒険しているみたいだ。
何処に繋がっているんだろう。
洞窟なのかな。
イチルちゃんが先頭に立って歩くこの場所は、ひんやりとしていて土臭い。
やっぱり洞窟みたいで、処処に薄暗い灯がついた…何かのお部屋みたいな入口があった。
それを通り越して、イチルちゃんは歩く。
やがて鼻が曲りそうな変な匂いがしてきて、思わず足を止めてしまうと…1つの入口がその匂いが流れてきていることが判った。
普通に嗅いでいたら鼻がおかしくなりそうで、あたしは**と鼻を指で摘んで顔をしかめてしまった。
何だろう、この匂い。
好奇心に負けて、その入口からふらりと中に足を運べば、そこは台所みたいで…大きな大きな黒いお鍋に、ぐつぐつ何かが煮えている。