シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
**とお鍋の中を覗こうとしたら、突然後ろから現われたイチルちゃんが、中身を見せまいとあたしとの間に入って、両手を広げてお鍋を見せないようにした。
「これはね、秘密のものなの」
机の上に…汚い色をしたクサがあった。
だけどね…その周りには、どす黒い色の液体が散った跡があって、鉄みたいな匂いもして…、鼻を押さえているのにあまりに臭すぎたんだ。
涙まで出て来ちゃった。
「まだ"これ"は成功してないんだ。だからお勉強中。こんなものより、こっちに来てよ」
後ろ髪引かれるように、お鍋を最後にちらりと見たら…ごとりと動き、何か白い足みたいのが浮いてきて。
あたしは驚いてイチルちゃんの後を追いかけた。
今度は**が1つのお部屋を気にしだした。
「どうしたの、**?」
「ん…何かね、ピカピカ光ってるんだ…」
あたしと**は、先に歩くイチルちゃんに何も言わずに、またもやふらりと部屋に入ってしまった。
そこには上に大きな棚があって、透明な丸い硝子の瓶みたいなものが沢山並んでいて、その中にきらきら金色に光るものがあったんだ。
「芹霞ちゃん、何だろう、あれ…」
「何だろう…高い処にあって、背伸びしても手が届かない…」
**と目を凝らして見ていれば、いつの間にかイチルちゃんが横に居て。
「イチルちゃん。あれ、なあに?」
そう聞いたら、イチルちゃんはにこりと笑った。
「芹霞ちゃん、"錬金術"って知ってる?」
「レンキンジュツ…? 判らない、なあにそれ」
「何でも金に変えてしまう魔法のことだよ」
「金? ああ、イチルちゃん、黄色が大好きだから…その色にしたいの?」
「私が好きなのは、金じゃなく黄色。金なんて、ただ光ってるだけで嫌い」
口を尖らせたイチルちゃんは、そして突然何かを思い出したかのように、静かに笑いだした。
「だけどね、金を上げると…皆が言うこと聞くの。金は凄いね、黄色には負けるけれど」
その笑い顔がぞっとした。
魔法使いゆんゆんの敵、デビル大魔王みたいで。
**は怯えて、あたしの服をぎゅっと掴んでいた。
イチルちゃんに促されて、また歩いた。
何て広い洞窟なんだろう。
そして、イチルちゃんが案内したのは――
「ん、此処だよ。此処で魔法を見せて上げる」
酸っぱいような饐えた匂いが立ちこめる部屋。
「うっ…臭い…」
それだけではなく…魚やさんにいるような生臭さも感じて、吐き気がしてきた。